カオスドラマFor

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ルシェ
「……ウゥン……は、早めに依頼に着手した方がいいかもしれないな……」ゲッソリ
「あ、そうだ。フィリカさん……ですね? 僕は流れの旅人で、しばらくこの辺りに滞在するつもりでして」
「今後、僕も月亭を通して冒険者向けの依頼を受けたいのですが―――」
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フィリカ
「ア!!!!お客さま! 合計で(ピーーーー)円なのです~~~!!!」
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ルシェ
(なるほど、誰かとパーティを組むこと自体が初めてだったんだ)
(そういうことなら、この彼女から溢れるドカ緊張も納得かな)

口元に手をやって小さく笑い、彼女の不安を受け止めるように柔らかい表情を向ける。

「分かった。まずはその依頼でお試しといこうか」
「君の実力は重々承知しているけれど、慣れないパーティで最初から上手くやろうとしなくていいからね」
「むしろ僕がお荷物にならないように気張らなきゃ」

言ってから、やや頼りない腕をまくる仕草を見せておどける。

「今日は良い日になったよ、それじゃあ―――」

そうして別れの挨拶を交わそうとしたところで、ほんの刹那。コトハと視線が合う。
初めて正面から覗いた彼女の瞳を見て僅かに目を見開き……すぐにいつもの人好きのする表情を重ねる。

「うん、僕も楽しみにしてるよ。またね、コトハちゃん」

(さて……初めての協力者か。ふふっ、彼女はどんな表情を見せてくれるのかな)

彼女が走り去っていく背中を見送る。
席について静寂の余韻に浸ろうとしたとき……テーブルに並んだ数々の皿に視線が落ちる。

「……これ……全部でいくらだっけ…………?」
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ルシェ
(判断が早すぎる!!)

「ほ、本当!? 嬉しいなあ、よろしくねコトハちゃん!」

”食事手当”を持ち出した次の瞬間に手を取られ、コミカルな汗笑いを浮かべながら握手に応じる。

(ご飯ひとつでここまで警戒心を投げ捨てられるものなのかな?)
(……ま、このわかりやすさは嫌いじゃないけどね)
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コトハ
「ご、後日に斡旋して頂いた依頼がありまして」
「その時にパーティを組んでみて、とりあえず……一緒に依頼をこなしてみましょう」
「ルシェさんの欲しい土地の情報とかも、其処で更新できると思うので……」
「えと、あの……なんか、急に動悸が……」

彼から離れるように席を立ち、あたふた、くるくるとその場でウロウロしながら、
肘を抱くように両手で胸の下を支える。

「そ、ソロ専だったので……パーティ組んで依頼……初めて……なんです……」
「そ、その……楽しみにしてますね……」
「で、では……御馳走様でした、ま、またね」

期待、同時に後悔や不安も兼ね備えた声色と表情でルシェに挨拶を告げる。
その間、僅か、ほんの刹那ではあったが、目線がルシェの瞳へと向かい、にへら、とはにかむ。

(お代気にしなくていいのサイコーだ~)

宿屋に繋がる二階への階段へと、走っていった。
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コトハ
(そ、そんな提案されたら私、断れないよ~!)
(は、反射的に言ってしまった~!で、でも、私に有利になるように取り計らってくれるっぽいし)
(きっと大丈夫~、私は言われた事を尽くしていけばいいだけ~)
(生活は安泰……するはず。きっと大丈夫)
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コトハ
「よ、よろしくお願いします~」

食事手当というあまりにも魅力的すぎる提案が出た瞬間、
彼女が警戒、不利と成り得る状況、それに伴う対価など度外視して、
再びテーブルを超えるように身を乗り上げ、彼の手を取って握手しながら縦に数度振る。
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コトハ
「――……!!」
(分け前有利!?)
(依頼内容もかなり簡単。伝聞程度の情報でもいいってことは、報告書の類も極小)
(生活が潤沢になる可能性が!?私もついに正社員(?)に!?)
(屋根裏生活もおさらばできるし、稼ぎによっては防音室だって……)
(で、でもダメ……まだ会って間もない人の話を鵜呑みにしてはならない~)
(そう、私はあくまで慎重に事を運ばなければ~)
(危ない危ない。世の中危ない人だらけ~)

「ま、まぁ、後日に考え――」

\食事手当なんか/
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ルシェ
「し、心配しなくても取らないよ……?!」

ガチャガチャとテーブルに並んだ食事を両手で確保するコトハに静かにツッコむ。

「おや―――……!」

ようやく興味を持ってくれたね……! と小さく咳払いをし、やや姿勢を正しながらコトハの顔に視線を向ける。

「別に難しい仕事はないよ」
「僕はこの辺りへ来たばかりで、土地勘も人脈もまっさらなんだ」
「だから君のように土地に馴染んでいて、あちこちに出向ける人と協力関係を結びたい。情報が欲しいんだ」
「依頼や任務で出かけた先で見かけたもの、おかしな噂、変わった人がいた―――そんな程度のことでもいい」

数えながら広げた指を折る。そこでいったん言葉を切り、視線を軽く上に向ける。

「ん~そうだね~……さっきは助手なんて言い方をしたけれど、つまり平たく言うとだね」
「僕とパーティを組んでほしいってこと。依頼の報酬分配は君有利でいいんだけど、どうかな?」

(僕はそこで得た情報を別に売ってから一儲けするつもりだからね😏)

「ああ、でもすぐに返事をしなくてもいいよ! いきなりこんな話をされても、コトハちゃんの都合だってあるだろうから」
「僕が本当に信用できる人間なのか、君自身で見定めてからでも遅くない」

「……あ~、でもせっかくコトハちゃんとパーティを組めるかもしれないなら……食事手当なんかもつけてあげてもいいかもね?」

ダメ押しの一言。言ってから悪戯っぽく目を細めた。
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コトハ
「る、ルシェさんは良い人ですね~」
「こんなにたくさんお恵み――あぁいや、取引材料を提供してくださるなんて……」
「そ、その……先程言ってた助手って……」
「一体、どんなお仕事するんですかね~」
「というよりも待遇――」
「興味があるというか~、その~」
「一応、ほら。知っておいて損はない事ですので~~~」
「あくまでルシェさんの人柄を知る為の会話の流れといいますか~~~」

ミニトマトを手に取り、両手の指でくりくりと弄りながら疑問を投げる。
先よりもモジモジとしており、その動きはこの現状に『慣れていない』ことを示唆していた。
彼女は自身が良くされる傾向が薄い、且つ恵みを受けたとしても、ここまで成功したことはなかった。
それ故に、ルシェが施し続けた食事という対価が、幾度も訪れた事に、
幸せや困惑など、様々な感情が幾重にも重なっていたのだ。

「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"( ‘༥’ ) ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹”」
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コトハ
フィリカに深い会釈をして、見送る。
目の前に広がった青物や、クリームの乗ったサンデー。
これから訪れる味覚に、最早興奮気味であった。

「わ、わわわ……!」
(い、いままでお恵みは頂けたけど、こんなにたくさん貰ったのは初めてだ~!)
(こ、これだけ奢ってくれるなんて、ルシェさんは良い人に違いない~!)

ガチャガチャ

テーブルを覆うように両手を広げ、自身の食事を確保する。
奢ってもらっている分際の態度ではない。

(も、もしかすると、この人がさっき言ってた助手)
(すごく、待遇がいい可能性があるかも……?)
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コトハ
(あ、よかった。ちょうど報酬分の質問回数だったんだ)
(じゃあ私の食事だね)

ルシェに対して色仕掛けを使った自覚は無いのか、彼が高揚感のままオーダーをすることに、
「ラッキ~」ぐらいの感覚で納得した。
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フィリカ
「はいは~~い! ただいまなのです~~~~~!!!」

(あのテーブルの男、絶対ろくでもねーのです)

内心で呆れまくりながらルシェとコトハのテーブルに品物を置いていった。
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ルシェ
(しかし、彼女の神経の太さには中々手を焼く……)
(食べ物や貸しの話でちょっと揺さぶってやれば、うまいこと扱えるかと思ったのに)
(いいね、燃えてくるよ……!)

「ええっと、野菜と……そ、そのうえデザートだって?」
「ふふん、コトハちゃん? そこまで要求するなら、相応の返礼は覚悟をしてもらわないt―――」

(―――!!!???)

耳朶を震わせる甘い囁きと、前のめりになったことで視界に現れた重力にならう双丘。

(近っっっっっっっっっ)
(でっっっっっっっっっっっk)

ルシェの脳内と主に聴覚と視覚に電流が走る!!!

(アッこういう返礼もあるか!!!いいね!!!全然いいとも!!!)

「ンシェフッ!! こちらのテーブルにボウルサラダと食後にデザートを!」
「ついでにドリンクのおかわりも頼みます!! すぐに!!」

パンパンッ!と手を打ち鳴らしながらよく通る声でオーダー。プライドなどない。
うまいこと扱おうとしていた女の子に、うまいこと扱われていたのだった。
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ルシェ
「け、健康体質じゃない? 僕が?」
「コトハちゃん? あんまり偏見で物を言わないほうがいいと思うよ??」

(まるで僕が不健康体質みたいな言い方してさ、失礼しちゃうよ)
(ま! その通りわりと好き嫌いする偏食家なんだけどね!😁)

コトハ、慧眼なのであった。
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コトハ
(じ、助手ってなんだろ……ルシェさん、情報を取り扱っているから……)
(……人身売買とか……裏口タイプ?)
(い、いや……でもそんなエグい感覚はしてないし……)
(で、でも……じ、助手か~……響きはいいかも……な、なんのお手伝いするんだろ)
(あれ、てか今何個目の質問?報酬分過剰?それともまだ貰える?)

「る、ルシェさん。野菜ついでに……デザート……」
「や、やっぱり、糖分もあってこそ、たくさんお話も出来るし」
「その人の幸せにも繋がるので~、ぜ、善意だと思って是非~……」

ゴニョゴニョと籠った声。
遠方でフルフェイスに貼り付けた笑顔を警戒するように、テーブルに半身を乗せるように乗り上げ、
ルシェの耳元……とまではいかないが、顔に近づいて囁く。
前のめりになっているが故、その左右から生まれる中央の空間が、
綺麗に線を引いて垂れ下がっていた。
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コトハ
「所謂、忍者がやるような依頼は全部出来ます~( ー̀дー́ )و☄️ニンジャッ」
「そ、それと……ステーキってたんぱく源じゃありませんか」
「健康維持のための、野菜のボウルとかでバランスを取った方がいいと思います~」
「ルシェさんは、そ、その、ほら、健康体質じゃないと思うので(何故?)」
「ここは一つ栄養素となるミネラルを~~~」

最早食い物の話しかしていない。
先から助手、何日か分の貸しなど、自分にとって脅威となる、不都合に成り得る部分を切り捨てているようにも見えた。
だが、彼女の思考は後から付いてくる。
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ルシェ
頬杖をついたまま、コトハの手遊びがテーブルの上を走り回る様子を口を挟まずに眺めていた。

(氷結聖殿。聞き慣れないダンジョンだ……)
(やはりその土地が変わると、そこならではの色があるね)

(―――王都アルヴェリア)
(の、近隣にある廃鉱山。採掘できる資源が枯れてしまったために、閉山して長い時が経ってダンジョン化した場所なんだけど……)
(最近は、妙な噂が多くなった。人型の魔物が多くなったとか……王都全体もなにやらきな臭い動きが増えてるし、)
(個人か組織かも掴めていないが、”異世界狩り”なんてヤツの噂も聞いた。危なそうなのには関わらないに限るね―――)

(―――と。僕は何をずっと考え事を……せっかくコトハちゃんが相席してくれてるのに!)

「うんうん、話してくれてありがとう! それと僕は君への認識を改めないといけないね」
「正直、もっと安全で簡単な依頼を適当にこなしているのかと思ってた!((ぉ」
「さすがは自分で”すごいと思います”と言い切っちゃうだけはあるね、素直に感心したよ」
「しっかり任務を遂行しきれるスキルを持ってる。安全確保も二重確認してて隙がない……」
「いいねいいね……ますます君を僕の助手にしたくなった」

自分の分ガーリックステーキライスを優雅に食べながら、勝手に彼女を助手にしようとしている発言が飛び出す!
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ルシェ
(ふふ、褒められて喜んでるのかわい―――皮肉が通じない!?)
(んでもって僕が喋ってる間ずっと食べてるな???)
(一瞬止まりかけたけどアクセルベタ踏みだったね??? 『まいっか!』みたいな???)
(だんだんわかってきたぞこの子のこと……むしろそのままの君でいてくれ……)

コトハのとんでもない度胸に圧倒されながらも笑みは崩さず、彼女の様子を眺めていた。
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コトハ
「ゴキュ――……わ、私のこと……ですか……」

自身の事を聞かれるのは慣れていない様子。
ただでさえ合った事の無い視線は、更に宙を漂うように横へと逸れていき、
食べ終わった口元を腕で雑に拭う。

「ゴシゴシ……」プルプル

「い、依頼は……朝は氷結聖殿……ダンジョン近くの使われなくなった篝火台再補修の為の、採取依頼です……」

手元のスプーンを縦にして、テーブルに付ける。
聳え立つ木のようにソレを固定すると、片方の手を自分として見立て、人差し指と中指で歩く様を手遊びで表現し始める。

「凍結魔法が粒子状に漂った地帯なんですけど、其処で育った樹木の内部に蓄積された火属性のエーテルを片っ端から集めました……」
「瞬間的に樹木は凍っちゃうんですけど、後からまた再燃するためにエーテル作り出すので……森林伐採とは違う~」
「自然環境では弱肉強食~」
「私は悪くない~」

手遊びで作られた自分が、スプーンをポコポコと叩いている。

「昼は対象素材を納品して、氷結聖殿に直行しました~」
「銀差しさん……えーっと、私と任務の競合起している人なんですけど(おい」

両手で手遊び。

「予め斥候していただいて、私がその後始末をする二重確認……探索依頼における安全確保をしてました~」

片方を追いかけるように、指同士をテーブル上で走らせる。

「お、おかげでギルド内での評判も鰻登り~~~」
「わ、私なしでは成り立たない~~~」
「眠すぎる……」
「え、えと……エースである私の今日はそんな感じです……」
「ど、どーでしょうか……すごいと思います」
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コトハ
「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\さ、召し上がれ!/

「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\君自身のことも聞かせてもらおうかな!/

「モグモ――( ◜⤙◝; )」
「……」
「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\どんな依頼を華麗に片付けてみせたのかな?/

「モグモグモグモグ(´н`;)」
「モグモグモグモグ(´н`;;;)」
「モグモグモグモグ(´н`;;;;;)」

\食べながらでいいから、ちょっと聞かせてよ/

「……」
「モグモグモグモグ(⸝⸝◜⤙◝⸝⸝)♡」

「ゴキュゴキュ……」
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コトハ
「ほ、褒められました~」
「えへ、えへえへ૮ ₍ ⸝⸝´ ꒳ `⸝⸝ ₎ა」

皮肉を知らない女。

「た、高い……けど……その分の情報はお渡ししますので~」
「先行投資~」
「世の中借金に厳しすぎる~」

ルシェの呟く不穏な言葉は、確かに彼女の耳に伝わり、脳内に届いていた。
届いてはいたが、それよりも「食事が来る」ことへの幸福感が危機感を打ち消しており、
リスのように小さな手をすりすりと合わせていた。
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ルシェ
「コトハちゃん、”いい性格してるね”ってよく言われない?」

コトハのおねだりとしか捉えられない一連の言葉を聞いて、眉を下げながら苦笑を浮かべる。

(前回も思ったけれど、コトハちゃんは食欲旺盛だなぁ……)
(僕がこの店の新参者なのをいいことに、都合のいい習わしみたいなのを吹き込んでくるし……)
(それに……えっと……米? 奢られる前提で食べたいものまで決まってる)
(報酬がどうとか関係なくって言っておきながら、要するに『食べ物奢らないといい情報あげない』って言ってるようなものじゃないかな?)

(さて……そんなにメニュー表を揺らさなくても当然気づいているわけなのだけれど……)
(むしろずっと気づいていないフリをしたら、どこまで必死になってくるのか見てみたい気すらしてきたな……)

「わかったよ、とにかく君に投資しまくっておくことにしようかな」

友好的な表情を保ったまま、やれやれと息を吐き、
コトハが揺らしているメニュー表をひょいと取り上げて料理名をツイーと指でなぞっていく。

「ガーリックステーキライス……え~っと……うわ、これ結構高くないかい?」
「王都で稼いだ路銀にはまだ余裕があるとはいえ、これは”何日分”の貸しになるかわからないなぁ……」

と、なにやら不穏なことを口走りながらフィリカへの注文を通し、ややあってからガーリックステーキライスが二皿並ぶ。

「さ、召し上がれ! ついでに、今度は君自身のことも聞かせてもらおうかな!」
「だって冒険者ギルド・欠けた月亭きってのエースちゃんだよ? これほど興味をそそられることなんてないよ」
「今日はどんな依頼を華麗に片付けてみせたのかな? 食べながらでいいから、ちょっと聞かせてよ」

楽しそうに頬杖をつきながら、悪戯っぽく目を細めた。
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コトハ
(く、くそ~!!!)
(なんでだ~!!!)
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手練れの冒険者
腕を組んで見守っているようだ(^^)
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コトハ
「し、食事は……頼まないんですか?」
「お、美味しそうな献立がたくさんあるんですけど……」

コップから手を離し、テーブルに添えられたメニュー表を指さす。
ステーキやスープ、サラダの盛り合わせなど、多彩な食事が楽しめそうな料理名を次々と見せつける。

「じ、ジュースだけだと……そにょ……力って出ませんよね……」
「や、やっぱり、ほら、活気漲るギルドといえば~」
「豪快に食らいつく食事の風景じゃないですか~」
「ルシェさんは来たばかりだから分からないのは当然なんですけど」
「此処ではたくさん食べる事が華とされているので~~~」
「その、これは報酬がどうとかとかとかとか関係なく~~~」
「米――ち、力の出るものを提供してくださった方が~」
「ルシェさんの欲しい情報っていうものの、精度があがると思うですよね~~~」

メニュー表を両手で持ち、自身の前で縦に揺らす。
その行動に特に意味は無いのかもしれないが、彼女なりにルシェへと「頼んでくれ」と投げかけているものであった。

(あ、あまり目立った行動でおねだりするのは出来ない~)
(禁止令で釘差された以上、私から頼むなんてご法度だし~)
(う~、食べたいときに食べれない世の中辛すぎる~)
(てか気づけ~)
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コトハ
「や、やった~……」

オレンジジュースが届く。
ルシェに頂く旨を伝える軽い会釈をして、さっそく口に含んだ。

「んまい~。゜(`Д´)゜。」
「やっぱりオレンジジュースはただの飲み物じゃない~」
「この甘さと僅かな酸味が身体の働きを活性化させてくれます……」
「……あの、ところで……」
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ルシェ
「―――」
「……なるほど。確かに、言われてみればその通りだ……」

(質問する前に、ある程度の仮説は立てていた)
(僕はてっきり、あのフルフェイスの鎧の人だと思ってたんだけど……)

コトハが指し示す先で周囲に檄を飛ばしている、小さくて大きな受付嬢を見て小さく頷く。
欠けた月亭での生活、活動、食事を、彼女の説明通りフィリカさんは土台から支えている。
となれば導き出される答えも当然……

「……僕は君のことを甘く見ていたかもしれない」
「思ってたよりずっとちゃんと人を見てる。僕の予想も外してくれたし……」
「つまらなくないね」

そう言って満足げに笑った。

「それで……オレンジ系のジュース? これかい?」

確かな感心を覚えつつ、コトハがすすめるメニューを見る。
2人前からしか頼めないなんて珍しい指定だな、と思いながらこれを快諾。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
「じゃあ早速頼んじゃおうか!」
「これは君の働きに対するきちんとした報酬だからね。しっかり享受するといい」
「―――受付嬢さん! このドリンクを僕たちにお願いします」

\はいなのです~~~~! 少々おまちなのですう~~~~~!!/

軽く手を上げながらフィリカへと声をかけた。ほどなくして注文のドリンクは2人のテーブルに並べられた。
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コトハ
「い、一番怒らせてはいけない人~」
「そうですね~、私的には~」

彼女が指さしたのは、ルシェの視線の先に居た冒険者……ではなく

\アッ!!!こらこらこら~~!!/

受付兼厨房側に居るフィリカに対してだった。

「フィリカさんですね~」
「依頼受注も斡旋も報酬確認も、土台となる部分を全て担ってくださっているので」
「私達冒険者は彼女には頭が上がらないといいますか~」
「ほ、ほら、食べ物の提供だって、フィリカさんがやってくれているので~」
「空腹は最大の敵~、死活問題~」

フォークとスプーン。そして箸が手元に並ぶ。
食器を握る両手は、テーブルについて握りこぶしとなっており、
チラチラと厨房側に視線を投げやったり、お腹を擦ったりしてみせている。

「で、でも、皆さん優しい人が多いですね~」
「御恵みをなんだかんだでくださりますし~」
「厳しいけれど、今を生きる為に活力を示す人々です~」
「じ、じゃあ私にもっと甘く接してくれって話なんですけど~」
「生きるのムズすぎる~」
「お、お腹すきました~」
「……る、ルシェさんジュース飲みたくないですか~?」
「ほら、メニュー表の裏側にあるオレンジ系の奴なんかがオススメですよ~」
「に、二人前からしか頼めないらしいです~~~」
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ルシェ
(燃焼け……今のは一体!?)
(そして”見えないや”って……? やっぱそうなんだね……!? そういう理由で足元が見えないんだね……!?!? 素晴らしいよコトハちゃん……!!!)

思わず鼻の下を伸ばしてしまい、へにょへにょとした締まりのない表情でにこにこ笑っていた。
極めつけはテーブルに、本人は無自覚なのだろうがこれみよがしにたわわな果実まで乗っけられ、思わず素で居るかも分からない神に感謝を捧げたのだった(

(……が、いつまでも見惚れているわけにもいかないか)

コホン!と咳払いをし、今一度テーブルを挟んだ向かい側に座るコトハを見る

「情報高くて結構!いいね、情報の強さを知ってる証拠だ」
「それで本題なんだけど……」
「僕、この辺りに来たことってあんまりなくてさ。欠けた月亭の内事情についても少し知っておきたくてね」
「まずは、ここ欠けた月亭で……コトハちゃんが思う、一番怒らせてはいけない人って誰かな?」

と、先ほどコトハが視線を回避していた、遠方にいる手練の冒険者の姿を見ながらコトハに問うた。
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コトハ
「い、今は麦茶でもいいから飲みたかったんです~……」

貰える前提で考えている。

「――と、取引、ですか~」
「……」
「わ、私の持つ情報を、ルシェさんが欲しがっているってことですよね~」
「その対価として、お恵みを下さる――あぁいや。食事を提供するってことですね~」

ルシェの説明を、何故か自分でし直す。
まるで提案しているのは自分であるかのように。

「……じ、じゃあ、交渉成立させましょ~」

丸めていた身体を開放する。
ヒョイッと胸を張って立ち上がり、Yの字にバンザイをしてみせた。

「燃焼系」ボソッ
「……見えないや……」

すぐさま猫背となり、ルシェの対面側の椅子へとスススーっと移動する。

「で、で……い、一体何をお聞きになりたいのでしょうか~」
「私の知る情報は高いので~~~聞きたい事はしっかり精査する事をオススメします~」

パッパッと肌に付いた汚れを落とす。
特に横腹から胸部側面においては、執拗に手で弾き、プルプルと振動を加えて効率よく落としていた。
身なりがバッチシ!となったのか、椅子に腰かける。
意図的ではないが、自然と胸部装甲がテーブル上に乗っかり、たわわに形を変えた。
だが、腰掛けてから即座にメニュー表を手に取り、眼前に広げて涎を垂らし始める。

「が、ガーリックステーキライスなんてものが……」
「あ、あぁぁぁ~……魚のロティ……う、うましょ~……」
「た、高いですよ~……こ、これは、私が出来る贅沢なんかじゃない~……じゅるり……」
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ルシェ
(なんて器用な移動方法なんだ)
(さすがは東方風の装束を身につけているだけはあるね)
(防御力は低そうだけど。かなり。めちゃくちゃ)

体育座りのままコロコロ転がってきた彼女と、その膝下から覗く左右をしっかり視界に納めてご満悦の様子であった。

「でもね~。先日にご馳走した貸しをまだ返してもらってないからね~」
「そんなに期待に満ち溢れた熱視線を送られても、これをあげられるような気分にはなれないかなぁ~……」

と、わざと見せつけるようにワイングラスの中身―――琥珀色の液体を一気に飲み干す。

「ま、ただの麦茶だから君が期待するような飲み物じゃなかったかもだけどね!」
「それはともかく、そんなとこに居ないで椅子に座りなよ」
「僕と取り引きをしないかい? 君の情報を、僕が食べ物や飲み物で買うんだ」
「こうした対等な取り引きなら、君にとっても都合が良かったりしないかな?」
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コトハ
「――!」

自身の名を呼ばれ、やや警戒気味に顔を上げる。
目に入った黄金色の瞳と、敵意を感じさせない柔和な表情。

「ルシェさん!来ていらっしゃいましたか!」

最早期待しかしていない声色。
そして何より、『腹ペコ』というチャンスしか感じさせない単語が、彼女の脳内を制圧していた。

「はい、はい。お腹が空いて……」
「もう朝から~~~いや、昨日から何も食べてなくて~~~、本当にきつくって~~~」
「も、もう自分で動けないぐらいエネルギーがないんですよ~~~」

体育座りのまま、コロコロと横から転がってルシェの元へと移動する。
トンッ、と彼が逆座りする椅子の脚にぶつかり、彼を見上げる形になる。
脚を抱えるように丸まってはいるが、その左右の空間から、ニュッと柔さが覗いていた。

「……⩌ ̫⩌」

その視線はルシェの片手に収まるワイングラスであり、
言葉にはしないが「欲しい」と強請っている。
遠方にいる冒険者から見えない位置からの強請り。
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ルシェ
「―――何してるの、そんな隅で丸くなっちゃって」

(丸い……)
(マリモだ……)

月亭の隅に追いやられて丸くなっているコトハに気が付き、少し笑いながら近寄るのはルシェ。
琥珀色の液体が注がれたワイングラスを片手に、椅子の背もたれ側を前にして椅子に跨る。

「やあコトハちゃん。 大丈夫かい? なんか頭が腫れてるように見えるけど」
「それにさっき少し聞こえちゃってさ……まさかまた腹ペコちゃんなの?」

苦笑を浮かべながらワイングラスの液体をくるくる回し、ひと口含む。
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コトハ
「『今日は強請るの禁止』って釘を刺されてしまった~……」
「こ、これじゃあ、自分からせがむ事が出来ない~……」
「あ、朝の採取依頼も、昼の探索任務も、私が頑張ったのに」
「どうしてこう報われないんだろ~……」

散財するからである。

「の、喉乾いたなぁ~……で、でもお水って気分じゃない……」
「出来れば甘~いやつがいいなぁ~、トロピカルフルーツとか……練乳なんかもいいなぁ~……」
「お腹もすいちゃった……我慢出来なくて動かしすぎたのはよくなかったか~……」
「でもしょうがないじゃん。ひ、人とは元来、本能がままに動く生物~」
「私は悪くない~」

モゾモゾと隅で体育座りをして、カンテラの日陰で不貞腐れている。
あまりにも丸くなっているため、最早マリモにさえ見える。

「お、お腹が空きました~……」
「うぅ~……(。ᵕ̣̣̣̣̣̣ ꘍ ᵕ̣̣̣̣̣̣。)」

モゾモゾモゾモゾモゾ……
icon
コトハ
「い゙だい゙よ゙~゙~゙~゙。₍°´◠`°₎。」

月亭の隅に追いやられたコトハ。
手練れの冒険者による鉄槌が下ったようで、隅で丸くなって縮こまっていた。

「うぅ~、の、喉乾いたから分けてもらおうと思っただけなのに~」
「脱水症状反対~……よ、世の中厳しすぎる~……」
icon
名無しさん
―しばらくして―
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手練れの冒険者
「……」
「すまない」
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ノマド
「……」
「おい、なんだこいつは」

明らかに自分の持とうとしている酒樽を狙っているコトハを見掛け、
冒険者へと言葉を投げる。
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コトハ
「……(狙っている)」
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ノマド
「貴殿の腕前であれば、未来確立の逸脱などあり得ない」
「私の計測器から発せられる秒針から察するに、観測可能域の範疇で貴殿の運命流量は星光を示している」
「小学生が縄跳びを飛ぶ事よりも難しく、高校生が自転車を漕ぐ程に簡単な事柄となるだろう」
「依頼の受諾、感謝する」
「では、後日西の果てで……」
「その前に酒だけ飲み干すか」
「ここの酒は美味い。蜂蜜より苦く、珈琲より優しい刺激が好みだ」

席を立つ前、テーブルの隅に置いていた酒樽に手を伸ばした。
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手練れの冒険者
「『秒針折り』だったか」
「承知した。件については私が遂行する」
「機構観測士である星遣い殿の依頼だ。万が一にも失敗せぬよう、最善の準備をしよう」

ノマドの対面。
甲冑の隙間から、大きなため息まじりに彼の依頼を承諾する。
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ノマド
「零時転位による地脈の乱れ。その震源は貴方が従事した轟の最果てに潜んでいる」
「星遣いが直接、その震源に触れようとすることは、教義の中核思想たる第二原理「運命は揺らぎの中に存在する」へ離反してしまう」
「介入するにしても、観測された星相は既に確立されたものであり、我々がその神格構造に亀裂を奔らせる訳にはいかない」

とあるテーブル。
重苦しい雰囲気を放つそのテーブルには、「因果統計解析機構」の一人、星遣いたる人物が居座っていた。
対面に居る人物へと小難しい単語を並べたて、その反応を伺う。
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名無しさん
―欠けた月亭―
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シグ
「ま、待て! 落ち着け―――」

(さっき喋り方を指摘した時)
(言ってからしまった、と思った)
(俺は最後までカリスタのことをイルとして扱うべきだったんだ)
(あのカリスタがこう面白おかしく暴れている様は愉快ではあるが、別に困らせたいわけじゃない)
(今回のことは本当に不幸な事故で、お互いが被害者といっていい)
(どうにか落ち着かせてやりたいが……今更俺がなにを言っても火に油を注ぐだけだろう)

彼女の慌てっぷりとその余波による自爆の数々に気まずそうに視線を彷徨わせ、最後には静かに目を伏せるしかなかった。
汗を浮かべながらカウンターに片肘をつき、様々な言葉を投げつけられる嵐が過ぎ去るのを待つ。
そうして捨て台詞を最後にカリスタが奥のスタッフルームへと駆け込んでいったところで、シグはようやく目を開けた。

「……最悪だ」

(忘れろ忘れろと言うが……無理だろ)
(俺だって男だ。あんなものを目の前で見せびらかされては、どうあっても意識してしまう)
(問題なのはアイツが同じ冒険者ギルドで活動する、いわゆる仕事仲間で)
(恐らく翌日、翌々日にはツラを合わせることになるということだ)

「……気まじぃ…………」
「欠けた月亭で会った時には何も知らないフリをしておくべきだな。アイツのためにも、俺自身のためにも……」
「つーかあのヘルメット野郎、全部アイツのせいじゃねえか。マジぶっ飛ばしてやる、決闘だ決闘―――」

吐き捨てるように言いながら乱雑に椅子から立ちあがる。
カリスタが消えていったスタッフルームの入り口へ一瞥をやり……踵を返して歩いていった。
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イル(カリスタ)
「こ、これは!!!ち、違うんだ!!!!!!」

ワンチャンバレていないとでも思っていたのが仇となる。
あたふた、わしゃわしゃと腕を動かし、地団駄を踏むようにその場で動き回る。

「私は別に好んで此処に従事している訳ではない!!!」
「この格好もただ店の意向で――」

バンッ!とテーブルに両腕を付く。
柔軟にも振動する谷間が重力に沿って線を描き、弁明せんとカリスタは身を乗り上げて前屈みになるが

「――~~~ッ////」

自身の露出。
それは決して視線が刺さる分には彼女は気にすることはなかった。
だが、事シグに関して。彼の視線に関しては何処か恥ずかしさを覚えるのか、
両腕で胸元を隠して身を縮こませるのであった。

「いいか!お前は此処で見たことを忘れろ!!」
「い、いくらでも奢ってやる!なんでも好きなものをやろう!」
「だから忘れるんだ!!いいな!?!?」
「今日の酒代もチャージ料も取らない!招待券使ってるから当たり前か!!!」

ゴチャゴチャとグラスなどを抱え、カウンターを一度拭き直す。
都度都度自身の肌が露出している事に恥じらいを覚えながら、目を白くして背を向けた。

「ではお帰りくださいマシ!!お客様!!!」

そうして居ても立ってもいられなかったのか、小道具などを片付けて奥のスタッフルームへと駆け込んでいった。
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イル(カリスタ)
「……」

喋り方を指摘され、しばらく思考に走る。
「あれ?」とでも言うような顔。
その視線の先は、目の前に差された指からシグの瞳。
空になったグラスと、自身がその直前に発言していた内容。
挑発に易々と乗った言動。
シグの核心的な指摘。
あらゆる要素が積み重なり、自身が今『カリスタ』として彼の前に立っている事が、
充分に理解できる。

「……」
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シグ
「―――……!」

イルは飲んでいる。それも止まらない。

「おいバカ、それ以上はやめ―――!」

立ち上がってイルの手を止めようとした時、空になったグラスを目撃した。

(!?)
(飲みきったのか……!?)
(浴びるように飲んでみたかっただの、夢が叶っただのよくわからん事言いやがって)
(……度胸は認めてやってもいい)

「……わかったわかった、煽って悪かった」
「お前が俺とタメ張るくらいに酒強いのは分かったから、いったん水でも飲んどけ」

汗を浮かべながら、「認めてやる」と言わんばかりに肩をすくめる。
そしてピ、と指をイルの顔に差し向け……。

「つうか喋り方」
「”イル”はやめたのか?」
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シグ
「ハッ! ああ。飲めるもんならな」

(どうせひと口で音を上げる)

なにせ相当辛かったのだ。アルコールそのものを流し込まれたような感覚。
さながらマグマが喉を通る感覚に咽るイルの姿を想像し……
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イル(カリスタ)
(随分と舐められたものだ💢💢💢)
(その喧嘩買った💢💢💢)

「いいんだな、奢ると言ったからには私は飲むぞ」

シグの威圧を何故か挑発と捉え、彼女を彩る傲慢(プライド)が炸裂する。
彼に呑ませようとしたグラス。先と同じ要領で注がれたウォッカを手にし、
豪快に口に持っていくと。

「―――……~~~ッッッ」
「ッッッッッッッ」
「ッッッッっしぇい~~ッッッ」

目尻に涙を浮かべながら飲みきった。

「ありがとうございますお客様」
「私は一度、この手の酒を浴びるように飲んでみたかったのです」
「お陰で夢が叶いました」

どこぞのキャバレーの眼帯した長のようなセリフ回しを言いながら、
目の前で腰かけるシグに「どうだ飲んでやったぞ」と言わんばかりに見下す。
見下したいのだが、位置関係&身長の結果、見上げているのだが。
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