カオスドラマFor

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「一歩遅かったですな……拙がいたにも関わらず、ベティ殿の勝手を許してしまい誠に申し訳ありませぬ……あの通り、彼女はなかなかに素早く……拙の目にもなかなか」
一方、静のほうも汗を浮かべこころなしか無念そうな表情を浮かべていた。
「さあ、ベティ殿。歓待の意も結構にございますが、次に謝罪を。客人に背後から襲いかかるのは、とても接客とは申せませぬゆえ」
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フィン
かたやフィンはというと、カウンターの向こう側で額を押さえながら汗を浮かべていた。
「ベティ……初手の力加減は気をつけてくだサイ……それで一体、何百人のお客サマを病院送りにしてきたカ……」
嘘か真か微妙に判断に困るラインであった。
「彼はメーベルさんデス、しっかり自己紹介するデスヨ~ベティ?」
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ベティ
「エ!!違う人なんだ!! びっくり~!! てっきりイメチェンしたコーディさんなのかと思っちゃいました!!」
ぱちぱちを目を瞬かせ、大きく口を開けながらそれを隠すように手のひらを口元に添える。
「だってこのダイナーってお客さんぜんっっっっぜん来なくって!! この間隔で来店してくれてるお客さんならコーディさんかな~って!! あはは!!!!!」
あははではない。
「でもお友達なんですね! ようこそいらっしゃいませ!!」
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メーベル
「ゴホゴホ……ん”ッ、ん”ん”!」
何とかベティから解放され、喉を鳴らす。襟元を直し、スカーフを巻き直して目を擦った。
「す”ま”な”い”、コ゛ーテ゛ィ゛じゃなく゛て、その友人た゛」
先の一撃で肺がやられているかのようなスカスカの吐息声。それでも発音だけは!と喉を鳴らしてベティに振り返り、カウンター席に腰かけたまま目線を合わせた。
「あ”~~”~……んっんー……うん」
「君がコーディの言っていた子か……熱烈な挨拶痛み入るよ。しかし、俺はあいつとそんな似ているかな?装いからして結構違うと思うんだけど」
焦点を合わせるように目元に力を入れる。瞳を何度かぐるぐると回し、しっかり視力が戻っていることを確認すると、懐中時計に一度視線を下ろす。計測器から音は特に発せられることはなかったが、物自体が無事である事を認識すると、再びベティに視線を戻した。
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メーベル
「あbrrrrおrrrrrr」バキボキボキバキバキ
首がすわらず、赤べこのようにだらんだらんと前後左右に顔が動く。
ただ動作するだけであればよかったのだが、ベティのその勢いの有り余った振動により首元から恐ろしい音が連続して鳴り続けた。
「ば、待゛、待て゛!死゛ぬ゛!本゛当゛に゛死゛ぬ!星゛が!星゛がもう来てい゛る!!!」
辛うじて力の入った腕を用いて、彼女の手を掴んで離そうと試みる。
(強ッ!!!なんだこれ、人間のフィジカルとは思えない!)
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ベティ
「こーーーんばんはーーーー!!! コーディさんっっっまた来てくれたんですねーーーーーー!!!!!!!!!」
彼の背中へビッグバンを放った張本人。ベティである。
金髪の毛先が桃色に染められた、愛嬌と勢いがたっぷりなウェイトレスの少女。
白とピンクを基調としたサンバイザーとエプロンのウェイトレス姿は彼女の快活さによく似合う。
しかしまた、健康的かつ肉感的な体つきや、元気すぎるが故にヒラヒラと忙しなく揺れる短めのスカートは、見る者によってはやや目の毒かもしれなかった。
「もう!! フィンちゃんも静ちゃんも、コーディさんが来てくれてるなら教えてよ~~~!」
わざと頬をふくらませるようにして2人に文句を飛ばし、自分が背中をぶっ叩いたメーベルを見てきょとんと目を見開く。
「……あれ? こんにちは? こんにちはーーーーー!?!? やばい死んじゃった!!!!!!! 起きて!!!起きてくださーーーーーい!!!!」ユサッユサッブンッブンッ!!!
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メーベル
ハ”ア゛ンッ!゛
「――ソ゛テ゛ィア゛ク゛!゛?゛」
背中から訪れたビックバン。その衝撃波は、彼の青い眼を吹き飛ばし、色素が瞬時に消え去る。端麗な容姿から発せられる謎の悲鳴音と共に、口元から白い衝撃波が名残として飛び出た!
「――ったァァ!!!!!!!!!!」
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メーベル
「前提となる形式を覆す雅を織り込むことは、それもまた『遊興』として捉えられる。君がこの西洋の商いにて和を提供していることは、確かに贅沢な代物だ……」
「あぁ、確かに多くを試す事は星天の確執さえ気に留めない星座線を描き直すような自由の印だ……」ガッ
「俺も現に君に教えられているようなもので――ん?」
静の淡々とした物言いに変化が見られた時、眉を僅かに動かす。その様子は先までの静かなる和を象徴とした者を保ちながらも、何処か危険を察知させる緊急性を備えており
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メーベル
「俺の表現技法を即座に理解してくれたな。有難い話だ。大抵は「何言ってんだコイツ」という言葉が顔面に貼り付けられるものだが――」
「明日を楽しみに思えるよ……」
フィンの目元から星を飛ばすような笑みを受け、綻んだ口角で目元を細めた。
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「……左様にございますか。口に合いましたなら、何よりでございまする」
感情の起伏が乗らない、淡々とした声色。
しかし、その落ち着いた声には確かな『安堵』が滲んでいた。
「一見すると場にそぐわぬような”異”も、同じ卓に並んでしまえば……案外、贅にございましょう。この”れとろ”で”ぽっぷ”な”だいなぁ”で働くにはこの拙も、いささか奇異ではございますが……これがまた中々どうして」
目元を細め、口元をかすかに緩ませる。
「なんでも試してみるものにございます。それもまた、彼女らに教わったことで―――!? これ、待てっ―――!」
突如として、メーベルの背後へと凄まじい勢いで殺気にも似た予感が迫る!
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フィン
「つまり~アレデスよね! 今までのメーベルさん的な言い回しデいくと……他のメニューも楽しみにシテルよ~みたいなコトデスよね?」
「それならオマカセ!明日もドンとこのフィンに任せるがイイデ~ス!」
デフォルメチックにぱちんと星が散るようなウィンクを飛ばした。
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フィン
(く、クソAI……! へえ、でも使用者によって態度を変える道具なんて面白いじゃんね~……しかも人格まで。はえ~うちのオーナーには知られない方が良さそ~……にしてもキレイ。普通にお洒落だわこれ)
見やすいように持ち上げられた懐中時計をまじまじと眺めていたところ、先ほどから何度も鳴り続けていた機械音が再び鳴り―――そして続く彼の言葉に素のような表情をし、仮面がわずかにずれる。
「ぉ――――び、びっくりした! 今のはフツーに口説かれたのかと思いマシタ!」
「ただでさえ顔がイイんデスから、そうやってすぐ女の子を喜ばせるようなコトは言わない方がイイデスよ!?」
熱を持った頬をぱたぱたと扇ぎながら、取り繕うように声を上げる。
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メーベル
自らの葛藤、という程ではないが、思考を挟む中、目の前に置かれた湯呑の侘び寂びに眼を細める。ダイナーのテーブルには異質な和の象徴を感じながら、その実、其処から溢れる芯から身を温める効能の和風が心を躍らせていた。
「……生姜か……茶の効能だけでは無く、付加価値を添えて俺の為に提供してくれているんだな……」
「茶の花香より気の花香。その説明を受けて、飲む前から心が温まったよ」
先まで内側にあった迷いは薄れ、感心めいた口角のまま彼女の雅な佇まいから示された湯呑の側面を右手で持ち、底に左手を添える。
「いただきます」
そっと、優しく口に濁りを含ませ、彼女の焙煎した物語を口内に広げる。味わい深い茶葉の緑に関与する成分が、底から身体に馴染んでいき温かみを広げる。そして広大に眩く中で、薄くも深みを表した生姜の色素が、温かみを染み込ませていった。
「……んま」
「花月夜に坐する天女の泪……星空の下で、この侘び寂びを味わう事こそが君の淹れた茶に対する敬意ではあるが……不思議だな……このダイナーで飲むからこそ、『安堵』する」
「すまない。洋食や果実酒と共に茶など無粋だとばかり思っていたが……俺には合うようだ」
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メーベル
「あぁ、もう茶の時間か……」
(まぁ大分ピザの濃い味で未明にまでは染め上げたから、酒との相性は考えずに飲もうか……)
カチカチ
(分かっている。お前が提示せずとも、俺はもうお静の善意を受け取る。別に良い顔したいとかじゃないんだが、俺が飲んだなら喜んでくれそうだろ、彼女)
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メーベル
「計測器はあくまでも星遣いの補助に使われる天体図投影器具だ。星詠み(運命調整)の際に確かに必要となるものだが、まぁなくても死にはしないからな。無くしたらベソかくまで怒られるだろうけど」
「AIや天体の意思が合わさった魔道具ではあるから、計測器それぞれに人格が存在するのは確かだ。星遣いの多くは計測器を従えている。その中でも、俺の計測器は使用者たる俺に敬意の欠片もないクソAIを搭載しているから、手に負えない。男嫌いなんだろうなコレ」
計測器に関する情報提示をしている最中、それ自体がよく見えるようにフィンに手元の懐中時計を視認しやすいように持ち上げる。
カチカチッ
「で、こいつが言うには君との関係値がこのままの方がより良い未来がある事を提示している訳だが……生憎浪漫に欠ける話だ」
「フィン、明日も勿論来るよ。君が繰り広げるもう一つの星の輝きを、俺の夜空に灯して欲しい」
要約すると『他のカクテルの味も楽しみにしている』という事だが、星遣い特有の詩的な表現を恥ずかしげもなく、真っすぐでありながら余裕のある瞳で口にする。
(計測器の示した未来に『変化』は訪れない。彼女の酒の味をこれからも味わう事の出来る保障がある。だが、それとは別に――その表の顔を剥いだ時の未来を、俺は見たいな)
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「おまたせ申しました」
フィンがまくしたてていた最中、静がカウンターへと帰ってきていた。
「静が腕によりをかけて淹れた茶にございます。どうぞ冷めぬうちに召し上がってくだされ」
コト、と湯呑みをメーベルの眼の前に置く。立ち上る湯気にはややツンとした香りが混ざっていた。
「生姜をすりおろして混ぜておりまする。もう間もなく春の足音も聞こえて参りますが、まだまだ冷える日はございますゆえ……」
手のひらで湯呑みを示し、微かに笑う。
「温まりますぞ。ぜひ」
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フィン
「それにしても本当に気に入ってくれましたネ~ワタシのカクテル! そんなに気に入ったんだっタラ、明日もゼヒ―――」
グラスを傾けるメーベルを目を細めながら嬉しそうに眺めていたが、ふいに手を止めてグラスを見つめるメーベルを見てきょとんとし……直後、彼の口から放たれる難解な語句たち!
「!!!」
「―――その通りデース……! ヤハリ星遣いの大先輩とシテ、メーベルさんには満天の星々の躍動ヲ、その舌で味わってほしクテ……スタァリィスカイパゥワァァァァ……!!」
(なにいってるこいつ??!??!??)
超反応を駆使して即座にアジャスト。無論、彼女が提供したカシスオレンジにそのような意図は無かったが、先ほどフィンが言った”好き勝手に運命をこねくり回す”とはこういうことだったのかもしれない。
\ガッ/
そして間髪をいれずカウンターに押し伏せられた懐中時計。次いでメーベルの口から放たれた言葉にぎょっと驚き、コミカルにツインテールがピーンと跳ねた。
「持ってってイイって―――イヤイヤ! そうはいきませんヨ~! 星遣いにとって大切なモノですよねソレ!?」
「確かにいま鳴ったカチカチは、な~んか含みがアッタような気がしなくもないようナ……ま、まぁ仲がイイ証拠ですネ~! 懐中時計と仲イイてドユコトやね~ん!って感じデスケド~!」
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フィン
「ダイナーに和装―――でしょウ~? ワタシも初めて見た時はビックリしまシタ!」
「ウチのスタッフってみんな個性的で、出身も様々なのデス。お静が東、ベティ――もう1人ベティってウェイトレスの子がいテ――が西、そしてワタシが北! まさに三者三様って感じデスね~」
先ほどメーベルに出したピザをはむっとくわえ、みょ~んとチーズを伸ばす。
ほくほくと満足げに『おいしい~♪』と頬に手を添え、身をよじるたびにツインテールとエプロンがふるふると揺れる。
\俺のだが?????/
「んふ~♪ まあまあ~♪」
口元からチーズを伸ばしながら、一切悪びれる様子はなかった。
「訂正~? まぁしょうがないデスね、あとでジョークだかラ~ってサクッと訂正しておきマス!」
「なんか面白いコトになるかな~と思ってつい言っちゃったんデスけど、危うくお説教のしっぺ返しを食らうトコロでしタ」
「しかも庇ってまでくれるなんてぇ~……フィンときめいちゃいマ~ス♡ 猫を被るなんてとんでもナイ!被るならせいぜいネコミミで~す♪」
胸元で手を組み合わせてぎゅっと握り、あざとくメーベルにウィンクを飛ばした。
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メーベル
「……あぁ……」
その手は止まり、酒の味が奥に広がる度に、彼は感傷に浸るような顔つきでグラスを見つめる。味わい深いが故に、損得勘定で食事を行う事を放棄していた。
「君の入れたカクテルは、きっと特別な工程を挟むわけでもなく、一人の客に出した品物に過ぎないのだろう」
「だが、どうしてか俺の夜空を満天に変える。不思議だな」
「星天が満ちし未明の狭間。その道標となる心の奥底に、この味は存在証明に至る……」カチカチ(笑)
ガッ(懐中時計を鷲掴みにしてカウンターに押し伏せる)
「フィン、タイマーいるか?持ってっていいぞ」
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メーベル
\ヒョイパクッ/
「俺のだが???????」
「まぁそうだな。これでフィンが不利益を被るのは俺も後味が悪い。俺から注文通りであることを――」カチカチ
「俺が社長ではない事を訂正してくれるなら、オーダーした事を大袈裟にアピールするさ。あとちゃんと食い切って代金も払うし、そんな猫被った催促の仕方をせずとも、フィンの要望には応えるよ」
そうしてカクテルの入ったグラスに手を伸ばし、少量ずつ口に含む。
茶が来る前に少しでも減らしておくべきだ、と思考に奔ってはいるが――
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メーベル
(下地となった表層は依然変わりはしないが、不思議だ。面白いぐらいに表情がありありと変化する。ダイナーで働いているということは、齢は幼少ではないはずだが、子供の相手をしているようで可愛らしいな)
静の忽ち変化を成す表情に、笑みは崩さずに内心滅茶苦茶楽しんでいた。困らせてやろう、という思考ではないが、またその変化を見たいと心に想いながら、和服を揺らして給湯室に入っていくその背中を見送る。
「ダイナーに和装とは、随分と変わった召し物だな。ただ、違和感はない。不思議な空間だ」
「注文通りではあるが、予想以上のデカさで来たからな。まぁ解釈は人それぞれではあるものの、第三者の観測から客観視すべき事柄だったのかもしれん」
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フィン
「えええぇえぇえぇ~~~~……?!」
「おシズ容赦ないヨ~……ワタシ悪くナイ、メーベルさんの注文通りネ~……!」
ヨヨヨ、と芝居がかったような泣き真似をしながらカウンターから身を乗り出し、メーベルが食べ進めているバカでかいピザをひょいと一切れつまみ上げる。
「おシズが帰ってきタラ、メーベルさんも言ってやってヨ! これでワタシが怒られるのは遺憾デース……モグモグ ン!オイシイ~さすがワタシ」
八字に眉を下げて同情を誘うような声色。
そしてそのままごく自然な流れで、店側から提供した時点でメーベルのものであるはずのピザをごく当たり前のような顔をして食す。
バケモンである。
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「それで……茶は―――」
\この洋風の甘味に合うなら話は別なのだが/
「あぅ……」ショボ…
\頂こう/
「おお!」パァァァァ
\出来れば温度を下げて/
「あぁぅ……」ショボ…
\適温で頼む/
「おお!!」パァァァァ
”ジト目無表情が基本”なのか疑わしいくらいにクルクルと表情を入れ替えてみせる様は、どこかオモチャのようだった。
「うむ、うむ……! 心得た……! ではすぐに茶の支度をして参ります、しばし待たれ、よ……」
と、すぐにお茶を淹れにいこうとしたが、メーベルが戦っている(?)バカでかいピッザを見て瞳のハイライトが薄くなる。
「……フィン殿……今宵は反省会にございます。お客人にお出ししてよい限度を超えておりまする……」
フィンをじとりと見やり、給湯室へと引っ込んでいった。
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「おお……! な、なんと社長殿にございましたか」
「…………ウチのフィンが粗相をしておりませぬか」
フィンの嘘にまんまと騙され、静はややかしこまるように居住まいを正す。
あまり感情が浮かび上がらないジト目無表情が基本の彼女だが、この時だけはありありと心配が見て取れる。
フィンがトラブルの常習犯であったことは想像に難くなかった。
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フィン
「でショ、でショ? ワタシのスゴさが知れ渡れば、アッという間にスターに……」
「……アリじゃね? え、いけんじゃね? 絶対ダイナーより金入り良いっしょホテルのラウンジ……あれ? なんか私いつもスーツ着てる気がしてきた……」
メーベルに背を向け、急に真顔になるフィン。メーベルにはギリギリ聞こえない声量でぶつぶつと独り言を続け、
「客層からして愛想良くすりゃチップとかもがっぽがっぽ―――ア!!」
勢い良く振り返り、取り繕ったような笑顔を貼り付ける。
「イヤー失礼失礼! ちょっとアノ、立ち眩みシチャッテ! もーフィンったら、”めっ”デース!」
舌をちろっと出し、軽く握った拳でコツンと自身の頭を叩いてその場を誤魔化し切ろうとした。
同時に、背後からかけられた声に気づいて振り向く。
「ア、お静! Oh、休憩なら平気デース! せっかく楽しいお客さん来てるカラ、もうちょっとお話してから行きマース」
「この方はメーベルさんと言っテ、『星遣い』の……社長デース!!」(???)
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メーベル
そうしてフィンとの会話を続けていた中、視線の映像に淡い紫が映り込む。
(客――いや、従業員か?働き場に関与しているという事は、そうだよな。だが随分と小柄だ)
その形が徐々に輪郭を帯びてくると、静の背格好の解像度が脳裏で高まっていく。
(赤白で構成されたダイナーの装いの中で、藤の和装を取り入れる。遊女のような大胆な恰好だが、その実は侍……江戸の文化か。多様性に富んだダイナーだな。この奇抜な商売は間違いなく売れそうなものだが――)
そうして思考を張り巡らせている中、静から声が掛かり、「お」と口を開いた。下駄の心地よい音と共に跳ねる簪が、彼の視線の中で和の愉しみを表現していった。
「有難い心遣いだが、見ての通りカクテルを嗜んでいる。君が淹れる茶が、この洋風の甘味に合うなら話は別なのだが――」カチカチカチッ!
「ん~?……あぁ、頂こう。ただ、俺は猫舌なんだ。出来れば温度を下げて――」カチカチカチカチッ!
「適温で頼む。これほどの和を象徴とした少女の淹れる茶なら、雰囲気ごと楽しめそうだ」
カクテルはまだグラスの半分は残っている。茶のサービスが来る前に飲み干すのは、酒に特段強いわけではない彼にとってはやや酷なこと。
「フィン特製バカでかいピッザを今のうちに食らっておかねば……」ガブガブッ
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メーベル
(随分と表情を変える人だ。何千回と賞賛を浴びてきただろうに、一個人である俺の言葉にここまで反応を示すとは……なんだか俺の方が承認欲求を満たされているような気もする)
フィンの事細かに変化を成す表層のパーツに、小さく笑みを零す。
「君の腕前が世に認知されたなら、スターも間違いなしだな。高級ホテルのラウンジで、フォーマルスーツを身に纏ったフィンも夢じゃないな」
高揚を隠さない彼女の弾ける姿に、最早安堵さえ覚える。自身が先まで喉元で繰り広げた感動が、目の前の快活な女性による語りで起きた物語である事に前向きな乖離を感じており、その現実に面白さが滲み出てきたのか「フフッ」と口角を上げた。
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「むぅ……ベティ殿の怪力はどうしたものか……」
カウンターの向こう。フィン側の空間に現れてメーベルの視界にフェードインしてきたのは、小学生ほどの背丈しかない謎の和服少女だった。
肩で切り揃えられた淡い紫色の髪。後ろ髪は一束にまとめられ、後頭部でお団子になっている。
謎の和風少女と形容されるだけあり、洋風ダイナーの店内には適してるとは言い難い紫色を基調とした和装。
片肩をさらして肌を見せるように着崩しており、小柄な体格には不釣り合いにせり出た胸元には白い包帯がぐるぐると巻かれていた。
極めつけは腰の帯に差された一振りの小太刀。ここは飲食店。食事を摂る場である。そこで帯刀する謎の和服少女。なぜなのか。
「フィン殿、今宵も閑古鳥が鳴いておるようですね。店番は拙が代わりまする、どうぞ休息を―――」
と、フィンに話しかけていたところで、メーベルの存在に気づいてぎょっと目を見開いた。
「あ、お客人……! ちゃ、茶の”さぁびす”はいかがでございますか。いらぬ節介やもしれませぬが、酒精を召されるのであれば、茶も一緒に……ええと、”あるこぉる”だけ摂取するのは、身体に障りまする」
メーベルがカクテルに興じている様子を見て話しかけながら、カラコロと下駄を鳴らしてカウンターに近づいてきた。
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フィン
「わかりマスか、わかりマスか!!」
フンフン!と鼻息を荒くしながらぽっと頬を朱色に染める。
得意そうに笑う表情と、縦に開いた口から覗く八重歯が彼女の喜びを表現していた。
「メーベルさん、ほんっとお口が達者デース♪ そんなに褒められちゃったらワタシ浮かれチャッテ、仕事どころじゃなくなっちゃいますヨ!」
「ぜひぜひ通っちゃっテ!常連になっちゃっテー! メーベルさんのためならじゃんじゃん腕を振るっちゃいマスカラ~!」
テンション高く浮かれた様子で喜びを振りまいていたところ、スタッフルームの方から足音が近づいてきていた。
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メーベル
口に含むと、オレンジの瑞々しい酸味が弾け、その背後から夜のように濃いカシスの甘さが追いついてくる。明るさと落ち着きが同時に混ざり合い、ジュースのようでいて、確かに酒だとわかる余韻が喉に残る。
だが単純ではない。
オレンジの無邪気な味の奥に、カシスの影のような苦みが潜んでいて、飲み下した後にだけ、大人の味だと気づかされる。
それらはフィンのバーテンダーとしての腕前が存分に発揮された領域であり、言ってしまえばただの酒でメーベルの舌先に一種の思い出を残していった。
「……あぁ、これは染みるな……いつまでも飲んでいたい酒だ」
自然体の余裕のある笑みや、呆れたような口角でもなく、驚いた素振りでもない。
ただ、身体の力が抜け、フィンの提供したカクテルに対して真摯に向き合うような声色と表情を見せる。
「ただのカシスオレンジと侮ってはならないな。君の愛情という奴かい?一見さんにこんなサービスしたら、常連になってしまうぞ」
飲むのが惜しいとさえ思っているグラスを持つ指先の僅かな動き。
再び飲み込む角度にグラスを傾け、ちびちびと口内にその物語を含ませ、小賢しい程に少量で味を堪能していく。
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メーベル
「……」
キッチンへと向かい、滑らかな動きで材料や設備に手を掛けるフィンを眺める。
その所作一つ一つが、ダイナーの厨房の脈動を打っており、観劇に浸る者の眼差しに変貌していく。
「……あぁ、バーテンダーとしての腕前は、今の所作でそうなんだろうなと思えたよ」
「愛情のサービスも助かるよ。心の飢えを癒すには、飲食よりも人の気持ちが有効だ。別にメンタルやられている訳でもないんだがな」
目前にスライドしてきたグラス。僅かに表面が揺れるカクテルを眺め、その反射で僅かに縁取られているフィンの甘い顔立ちが目に飛び込む。
何かを期待しているようなその愛らしい表情に、目を伏せて「フッ」と笑んでみせ、円に口を当てて味を堪能しはじめる。
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メーベル
「おっと、運命をコネコネしすぎると倫理委員会からのお叱りが――いや、アイツらはカップ麺の端に付着した刻み葱レベルの存在感だから確かに気にする事も無いか……」
「しかしバーテン24年の内に、星遣いだった時期はどれぐらいなんだろうか。副業出来るなら俺もしたかったよ(?)」
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フィン
「―――さ! ご注文アリガトゴザイマ~ス! カシスオレンジですネ!」
「ワタシはバーテンダーとしてのキャリアが24年になりますカラ! 暴れる血糖値クンにトドメを刺すサイコーの一杯をご提供しマース!」
彼女の真紅の瞳がきらりと光り、勢いよく踵を返す。
キッチンの棚からシェイカーを抜き取り、同時に足先で低位置にある冷凍庫の扉を引き開ける。
  ザ ク    カ ラ ン ッ
ガラスがぶつかったような透き通る音を響かせ、シェイカーに氷を放り込む。
「ほ、ほっ―――」
大道芸かと見紛うようなシェイカーの躍動。
カシスリキュールとオレンジジュースを注ぐ手捌きすら手品のようで、蓋が閉じられたシェイカーが宙を舞う。
シャカシャカシャカ――――!
銀の筒の中で氷がリズム良くぶつかる音を心地よく響かせ、余裕そうに胸の前でシェイカーを振るうフィンはさながら熟練のバーテンダーだった。
「ほっ―――ヘイオマチ~~完成デース! フィン特製のカシオレ! 愛情た~~っぷり込めといたカラ味わって飲んでネ~♪」
愛想良くそんな軽口を叩きながら、グラスへ注がれた一杯をカウンターに置き、指先で押し出しメーベルに提供する。
「フフ~ン♪」
自信満々そうにカウンターに両肘をつき、上目遣いに無遠慮な視線を向けながらメーベルの反応を窺っていた。
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フィン
カウンターに肘をつき、彼の語る運命への思いに静かに耳を傾けていた。
「フフッ。 たとえ最善でなくトモ、それはオレが選んだ運命だかラ―――みたいナ?」
「そういう気持ちならワタシもよくワカルかもデスネ~。星遣いらしく、よく好き勝手に運命をこねくり回してるカラ」
フィンはそう言って、よく回る舌を”べっ”、と出し、片目を閉じながら煙に巻くようなウィンクをメーベルに向けた。
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メーベル
「ありがとうフィン。俺はまた別側面から天体への懸念を有意に押し上げる事が出来る」
「ただ一つ君に示す事があるとすれば、俺という個は決して「カワイソウ」ではない。俺の選択したその事柄、そして計測器の示した道から外れた物語も」
「俺自身は決して優劣など付けず、俺の歩んだ道としてその価値を心に刻める事。確かに未来をよりいい物にするべく、俺達星遣いは運命調律に励んでいるが、こんなボンクラ(計測器)に示されずとも俺達は運命を選ぶ立場にある」
「あぁ、何が言いたいかというと……フィンの観点は俺の好みだ。その視点を提示してくれたのは、結構嬉しいことだな」
フィンの言葉を「心配してくれた」と捉えており、その冗長な物言いの中で自分の感情を発露させる。先までの飄々とした笑みよりかは、その綺麗めな眉を八の字に曲げて、逞しくも強い声色で、彼女に「心配ご無用」という感情を伝えようとした。
「だとさ、計測器。お前を改造してシェイカーにしても良さそうだぞ」
フィンのおだてにフッと笑い、懐中時計を再び数回振る。
そうしてフィンのニコやかな言動を受け、目に見えてわかる営業とは云えど、心を許すかのように目を伏せた。
「味の濃いものをぶち込みまくったから体内で血糖値がクソ暴れ始めた。追い打ちをかける意味でアルコールがいい(?)君のシェイカーとしての腕も堪能させてもらおうかな。カシスオレンジを頼む」
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メーベル
フィンの示した現実と未来への回帰地点。現時点で計測器から示唆された"今"が、彼女の表情や声色から快く思われるものではないものではないかと感じ取る。
それは星遣いである彼にとっては仕事上通過する感情であり、同時に無神経にまでなれる程に当たり前であった事象。それ故に――
「……」
彼女の同情の念に、物珍し気に口をぽかんと開けて静止する。
「驚いた……なるほど……確かにその観点で考えれば、俺は感じ取る必要のない最善ではない道の行路というものを突き付けられてしまっているのか」
「計測器は常に俺により良い未来の為に天体を示すが、それは本来訪れる必要のない運命の調整……感慨深いと同時にムカついてくるなコレ」
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フィン
一瞬の静けさを見せたフィンが、すぐさまニパッと咲くような笑顔を見せる。
「ワーオ! メーベルさん、とっても素晴らしいシェイキング!」
「ウチのシェイカーを持たせたら美味しいカクテルを作ってくれそうデース!」
「案外お茶目なトコもあるんデスネ~、ギャップすばらしデス……! アーそうデス! 飲み物どうしマスカ? お茶~? アルコ~ル?」
にこにこと人好きのするような笑みを浮かべ、懐中時計に制裁を加えている彼に注文を催促した。
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フィン
「―――常に”もっと上手くやれたはず”を突き付けられるのに、この”今”は違う。……結構しんどいかもね」
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フィン
「ア~~そっカ~~……そういうことデスカ~~……」
彼女に何が分かったというのか。
そう易々と処理できるはずもない情報の濁流を前に、腕を組みながらウンウンとしきりに頷くフィン。
「今の『星遣い』はそういうの使ってるんデスネ~~」
「いやぁ、ワタシはそういう便利なの使わないのが流儀デ~」
自身がかつて『星遣い』であったという大ホラを、まだ懲りずに引っ張るつもりの様子だった。
「それにしても……カワイソウ! より良い未来が見えてしまうナンテとってもカワイソウデース」
「だってより良い未来が示唆されて、常に今が失敗だった~みたいに見えちゃうってコトデショ?」
肩を竦めながら瞼を微かに下ろし、メーベルが持つ懐中時計を見る。
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メーベル
「あぁ、この懐中時計か。これは『星遣い』達のための天体図(ホロスコープ)を覗く為の計測器だ。天体運動と因果波動を同期させる際に発生する時空を探知して――」
「星座の位相変化から確率未来分布図を――」
「極小の時間位相ズレを発生させ、未来の分岐確率を数%単位で調整――」
「内部には魔導歯車と量子水晶、極小のAIチップが――」
「時間位相操作ってのが爽快でな。リューズ(竜頭)を特定角度回転させることで、未来確率を最大0.5%まで補正可能――」
「―――――――」
熱弁。活字が口から渦巻くように飛び出ていき、興味本位で聞いた情報としては脳が拒否する程の莫大な固有名詞が飛び交う。
ただ、その口調は淡々としたものであり、語り続ける本人の顔色に変化は無く、さも「これが聞きたかったんだろ」とでも言うような済ました顔でフィンにひたすら情報を提示していた。
「要は、運命の流量を調整する国家公認技術者である星遣いが、未来を微調整するときに使う計算機だ。普通の時計としても使えるぞ」
「些細な事でも、未来の価値を高める。運命とは天体と連動しているものであり、この懐中時計はその行先を示す神秘的アイテムだな」
「今しがた、君達ダイナーの食事を褒めたが、この計測器によれば他の褒め方であれば未来はより良いものになったらしい」
「たまにこの懐中時計をぶん投げたくなるよ。俺なりに褒めたのにコイツは『違う!』と嘆くからな」
爽やかな笑みのまま、懐中時計を小刻みに振りまくる。まるで中に居る人物を苦しめる為に仕返しをする動作は、さながら子供のようなものであった。
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フィン
「フフン! 実はそうだったんデス! 覚えておいてくださいネ~♪」
腰に手を当てながら、『ドヤっ』と言いたげに胸を張る。ただでさえ大きくせり出ているエプロンがさらにピンと伸びた。
もう自分が真実”ケイオス三大美女の1人”であると思い込んでいるようだった。
続けてメーベルが店や自分たちを褒めると、わかりやすく嬉しそうに笑う。
「ン~~♪ ウンウン! コーディさんそういう風に言ってくれてたんダ、あのヒトやっぱり見る目あるネ!」
「ア~違わナイ違わナイ! なんでか懐中時計がチョットうるさくなったケド、すべての要素が三ツ星だからこそ―――『ふりかけ』???」
瞬間、フィンの表情が真顔に戻る。
「ア……ア~……まぁそうですネ! たま~に削りマス! あの~……ヒジとか! ワタシのヒジってトリュフの香りがするデスヨ~~!」
もはやただのビックリ人間だった。
「それにしても、メーベルさんのそれ……キレイな懐中時計デスネ~。 なにかイワクつきデスか?」
カウンターテーブルへ身を乗り出し、興味津々といった顔でメーベルの懐中時計に目を向けている。
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メーベル
「そうだな。コーディ曰く、目の保養になる店……要は、フィンを含めた従業員を眺めながら食すことに導きがある事を説いていた」
「この食事は店の雰囲気が、厨房の設備が、食材の品質が、料理人の腕が、そして君達という存在が関与し合ってこそ真価を発揮している」
カチカチッ、と懐中時計が鳴る。まるで"そうじゃない"と言っているかのような、忙しない音であった。
「違うか……ん-……君という『ふりかけ』のお陰で美味くなっているんだ(????)」
明らかに悪意のない声色や表情、視線の動き。
妙な表現こそしたが、フィンの料理そのものを気に入っており、その上でフィンたちを眺めていられることに是を示していたが、やや表現に難があった。
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メーベル
「そうなのか。俺は『星遣い』にケイオス三大美女の一人が居る事を初めて知ったようだ」
絶対に違うだろ、という直接的な表現はせず、静かなツッコミをフィンに入れる。
その直前の増えた3億人についても、特に触れずにいた。
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名無しさん
(あ~~確かに……モノは言いようだわ~……)
損と得の言い換えに感心しながら、褒められていることを理解し嬉しそうに目を細めた。
「! オニーサンはメーベルさんって言うんデスネ~~……んふーメーベルさん、よろしくお願いしマス!」
彼の自己紹介に元気に応え、”メーベルさん、メーベルさん!”と意味なく何度か名前を呼び楽しそうにしていた。
そんな中で首を傾げながら言葉を投げかけてきたその内容に目を丸くする。
「まぁ……実はケイオス三大美女に選ばれチャッテ~~……そう、本当はワタシの美貌の力で10億人のお客さんが来てたんだケド~……まぁ蒸発しちゃってラ、しょうがないよネ~~」
やや大袈裟に肩を竦めながら、何でもないような口調で言った。そして極めつけには―――
「ア~~~……『星遣い』デスか……そっかー……懐かしいデスね~……ワタシも頑張ってたナ~」
などと、おそらくメーベルが与えられている役割を一度経験したことあるような言い回しをする。もちろん嘘である。
「ふふ、んまいデショ~……? なんかその、思わず素で出ちゃった~みたいな褒めがいっちゃんウレシイですネ~♪」
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メーベル
「……あぁ、そうなるよな」
「フィン。よろしくお願いします。俺の星詠み(名前)は『メーベル』という」
「計測器に沿って世の運命を調整する『星遣い』と言ってな……まぁまともな仕事に就けていない風来坊と思ってくれていい」
自身の話になると、ややバツが悪そうに表情が引きつる。
目前にいるフィンに対して、視線だけでその溌溂とした言動を満遍なく受け止め、幾度か瞬きを繰り返して首を傾げる。
「しかし、随分と可愛らしいシェフだな。彼(コーディ)の言う通り、外面だけで売れても可笑しくはない」
「何故こんな客がいな――あぁ、そうだ。俺が蒸発させたんだったな」
「――」
目の前でフィンが見つめる中、少し食べ辛そうな感覚を出しながらも、チェリーバーガーに食らいつく。
「んま」
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メーベル
(あの男がこの人に?そうか。あいつはどうやら数撃っちゃ当たる作戦に出ているようだな。三十路の男が良くやるものだ)
フィンの求婚の下りから、コーディの風評被害が加速する!
「質量に対して、味がいい意味で釣り合っていない。これは今、身体に放りこんでおかないと損だね、損。いや、この表現は少しマイナス表記になってしまうな。身体にぶち込めば得だよ、得」
「俺の読む詩は紙媒体ではなくてね。まぁ、懐中時計由来ではあるのだが――」
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フィン
「葬儀屋―――」
彼の口から出てきた名前に目を見開く。
「ああ! この間きてくれマシタ! ウンウン、その時はとってもタイヘンだったデース……あんまりにもワタシが美しすぎるからって、しつこく求婚されちゃッテ―――」
さらりととんでもないでまかせを口し、ピザにかぶりついたメーベルを見てくすりと笑った。
「これくらいは食べきってくれないト! 味は保証しますカラ! どうしてもダメだったら持って帰ってもオ~ケ~♪」
「ん、ピザを片手に詩を詠む……?! ダイジョブ、その詩脂ぎってナイ……?(汗)」
と、話題を仕切り直すようにメーベルが座るカウンター側へ身を乗り出し、彼にずずいと顔を寄せながら見つめる。
「ところでオニーサンは何者デス? ワタシはフィン、氷室フィンと言いマス! オニーサンの雰囲気、とってもミステリアスで……ワタシ、気になりマス……!」
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フィン
「ソウ……アナタは良くわかってるデス……ワタシの胃袋は天の川に繋がっているのデスヨ……コズミックパゥワァァァァ……!!」
(なにいってるこいつ????)
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メーベル
「ウェディングピザか???」
目の前に置かれたピザを見て、その幾分にも重なった層に多少驚きを見せる。
「君はイケるクチかい。流石、シェフというだけあって大量の味見をしてきたから、胃袋も夜空の端に連ねる世界を持っているようだ(???)」
「この店は葬儀屋を従事している知人に教わった。名を『コーディ』という。目に入れても居たくない程の美女が集っていると教えられてね。その評判は嘘ではなかったようだ。実際に君は――」
「いや、デカすぎる。思った百倍デカいの出てきて口に放り込めんぞこれ」
軽々しいリップサービスの最中、最早雰囲気を度外視してピザにかぶり付こうとしていた。
だが、その巨大な生地に口を添えただけでは円の縁をなぞる程度の事しか出来ず、苦戦していた。
「――こう食べればいいのか。なるほど」
それはそれとして、その眉目に似合わない大口を開けて、ピザを食し始めた。
「んま、んま……男の好きな不摂生を理解しているね。これを片手に詩を詠むのも乙だな」
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フィン
ジュゥ、とバーガーに挟むパティを焼ける音を聞きながら、ちらりと横目で彼の様子を見る。
(浮世離れしてるって感じ……なんだか妙に絵になるというか。懐中時計を見る仕草もなんか……物憂げで詩人めいてるような―――)
\タイマーセットしとこう/
(いやタイマーかい!!!)
「ハ~イ、お待たせしましタ~♪」
心のなかでツッコミながら、仕上がった料理をカウンター越しにメーベルに差し出した。
肉、野菜、チーズ、バンズのド定番ハンバーガー”チェリー・バーガー”と、
『とにかくバカでかいの』と注文を受けて窯をフル稼働させて焼き上げた、5段重ねのピザ。
成人男性でも食べきるのは難しいだろうことは一目瞭然だった。
「ン~……ワタシのオススメいっぱいいっぱい食べてくレル、ウレシイけど……オニーサン、これ食べられル? 正直ムリじゃない? まぁワタシはイケるケド……(???)」
「ところでさっき、興味深いお話ピロッとしてましたネ! ”知人曰く穴場のダイナー”って……このお店のこと、誰かに教わったノ?」
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