「……」
(肩から離れた手。離れる寸前の僅かなブレは、俺の肩に親密に触れていた彼女とは思えないマイナス軸の振動だ)
(静の所作も気になる。先の慇懃な言動に表面こそ似ているが、ただ作法に則った動作をしただけにも見える……)
違和感が連なる彼女らの反応。そして小さな舌打ちが聞こえると、彼はカウンター越しにいるフィンへと向き直ろうとした。そうしようとした時、彼女の飾らない様子を際立てた流暢な声色が耳元に奔る。
「……あの御仁は客じゃないのか?」
唐突に帰宅を促された故か、疑問の方が打ち勝つ。その声量は、すぐ傍のフィンを含めた3人にのみ聞こえる囁きであった。
「――」
突如現れた男に視線を固定する。
成金の出で立ちを表すスーツや指輪は勿論のこと、権力を具現化したかのような刺繍や、見てくれと言わんばかりに雑に胸ポケットに仕舞い込んでいる札。その全身像を一目見ても、彼は特に動じることは無く、寧ろ「おぉ」と感嘆にも聞こえる声を小さく述べた。
「――上流階級の出身か……?出で立ちからして隠蔽する気配の無い支配層の趣……」
「どうやら売上への天の川が来たんじゃないか?これは君達のツキが回ってきたというもの――」
クルリとカウンター席に座ったまま周囲の反応を伺う。それは、自身が想定していたものとは掛け離れた『嫌悪』を示していた。