カオスドラマFor

または

ここに画像をドラッグ&ドロップ
またはクリックして選択

icon
名無しさん
―PM22:00 クローズ作業中―
icon
フィン
「じゃ、さっそくお願いしちゃう!」

ゲームセンターの空間を眩く照らすネオンの中で、フィンは改めて星型のぬいぐるみを片腕にきゅっと抱き、一歩前に進んで半身で彼に振り返った。

「”もっとあそぼ”! クレーンゲームだけじゃなくて、他にも遊びたいゲームいっぱいあるの!」
「エアホッケーとか、ガンシューとか……自撮りスタジオもやりたいし―――」
「覚悟してよね、星の王子さま!」

そうしてネオンの遊び場へと繰り出す2人。
フィンはメーベルに救われた小さな『星詠み』を大事そうに抱えたまま、楽しげに彼の手を引いていったのだった。
icon
フィン
「―――神より頼れる男なんだもんね?」

頬に触れる手を握ったまま前のめりの姿勢になり、小さく首を傾けて上目遣いにメーベルを覗き込んだ。
icon
フィン
「!」
「またほっぺた触ってる~。フィンちゃんのもちもちほっぺ、そんなに気に入っちゃった?」

からかうように笑ってみせるが、そこから逃げるような素振りはなく……

「……ま、とか言いながら私こそメーベルさんの手、けっこうアリなんだけどね~」
「……っ♪」

猫が甘えるように目を細め、彼の手のひらをより近くで感じたくて自ら頬をすりつける。

「でもメーベルさん、今のは失言だったかもよ?」

頬に触れる手の中から目をピタリと合わせ、彼の手に自分の手を重ねながら小悪魔的な悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「つまり、私はお礼さえすればメーベルさんをいくらでも自由にできる券を手に入れたも同然ってワケよ!」
「願えば応えてくれるんでしょ?」
「今回は”たすけて”で……じゃあ、”あそぼ”でも、”ひま~”でも!」
icon
メーベル
「たすけて、と願ったんだろ。応えるとも」
「動機や場面がどうであれ、俺を頼ろうと思ってくれたんだ」
「いつでも頼ってくれ」
「なんていったって、俺は神よりも頼れる男だからな」    <カチカチʅ(´◡◝)ʃ.
 
可愛らしく回る彼女を眺め、その髪の揺れや表情を目で追う。
そうして最後に目が合うと、再びはにかんで目を細める。

「元『星遣い』だろ」
「携えておけ。たかがぬいぐるみだが、仮にも星の形をしているんだ」
「その星が、俺から君に送る『星詠み(運命)』と思ってくれれば」
「受け取るのが道理――う~ん、嬉しいか」
「嬉しい、だな」

フィンの持つぬいぐるみに手を添え、先端の角を僅かに摘まむ。
フッと笑いつつも、そうして無事を確認した時のように頬へと手を添えた。

「まぁなんだ、勝手にお礼として受け取るが」
「君の頬は柔い。ちょっと堪能させてくれよ」
icon
メーベル
(子供のように燥いでくれるな。たかがぬいぐるみを一つ取っただけだというのにこの喜びよう)
(計測器、お前は星位同期機能を基として、今日この時を運命の流動に取り入れるべきではないと主張したが)
(何、一人の女性が俺の成したなんてことのない一面を見てこれだけ楽し気にしてくれているんだ)
(運命に抗うのも、いいものだと思わないか)

フィンの喜ぶ動作が、腕を通して伝播する。
大きく反応を見せている訳では無いが、その感触にやや困ったような笑みを浮かべて、
彼女の喜ぶ様を眺めた。

「何事も初めは上手くいかないものさ」
「それでも、隣に夜空の切れ端が浮かんでいた」
「その夜空に星を輝かせる為にこの些細な仕組みを理解し、実行する事ぐらい」
「なんてことのない動作だったよ」
「……あぁ、悪い癖だ。またシャルルに煽られる、言い直さなくては……」
「要は君の為にカッコつけたい。君がお願いしたから、俺が願い星になった」
「なら、その輝きは俺と言う実数値の限界を超えてでも」
「君の願いを叶えるべく――」      >カチカチカチカチ!!!!
「今度は排水溝にでもぶち込んでおくか」
icon
フィン
\ボトンッ/

「きゃーーーーーっ!! 取れたぁぁ~~~~っ!!!」

興奮のあまり握りしめたメーベルの袖をぎゅっと胸元に抱き寄せ、わーっ!と元気よく飛び跳ねてはしゃぐ!

「えっ、ねえねえホントにすごいんだけどっ!!」
「逆になんでさっきあんな下手っぴだったの!? 星の導きってすっげーのね~~~……っ!!」

ぬいぐるみを差し出され、メーベルから一歩離れてそれを両手で受け取る。

「……へへ、良かったねぇ。星の王子さまに助けてもらえて~」
「メーベルさんってばホントに有言実行する人だよね。”たすけて”って言ったら、助けてくれた」
「……ありがと、メーベルさん」
「~~っ……♪」

星型の先端?頭?をポンポンと撫でながら、その場でご機嫌にくるくると回り、メーベルに向いてピタッと止まる

「……てか! 差し出されたからなんとなく貰っちゃった感じになってるけどさ」
「メーベルさんはいいの? 獲ったのメーベルさんなのに」
icon
フィン
「滑り止め? え、そう……なの?」
「でもでもメーベルさん、あの星型マスコットのぬいぐるみのどこに、引っかけるなんて―――」
「……本気!?」

と、メーベルが操作するアームの真下を見て察する。
それこそ文字通り、針の穴に糸を通すような芸当。

「え、え、えっ」
「できたらすごい、できたらすごいっ、できたらすごいっ……!!」

筐体を食い入るように見ながら、メーベルの服の袖をぎゅっと握る
メーベルがボタンから手を離し、ぬいぐるみに近づいていくアーム。
その”芸当”が1秒ごとに現実味を帯びていき―――
icon
フィン
「んっ……!><」

ぽんっと頭に置かれた手にきゅっと目をつぶり、心地良いような恥ずかしいような相反する感情が渦巻いた。
icon
メーベル
「そもそもこのアームは滑り止めが付いていない。持ち上げたところで移動中にずり落ちるのが目に見えている」
「なら、持ち上げる、ではなく、引っかければいい」

横移動、対象としたぬいぐるみとの軸が完璧に合わさった位置。
そして縦移動。星の中心ではなく、やや手前で、ぬいぐるみの角。それもタグのようなものが付いている位置にまで調整する。

「もっとも、此処まで出来たとしても、運命が絡む」
「手元にあの馬鹿(計測器)があれば、運命流量に従った操作も出来たであろうが」
「何、隣に夜空の切れ端が浮かんでいるんだ。その感覚がままに遊ぶことが出来れば」
「きっと運命も応えてくれるだろう」

そうしてアームが動く。
ボタンから手を離し、後は行末を見守るだけ。
そして一切の危なげも無く、それも呆気なくぬいぐるみはアームに引っかかり

ボトンッ

景品口に誘われた。

「五芒星の形をしているのは納得いかんが、それもまた良し」
「星とは本来、マジどうしようもないぐらい汚い形をしているんだが……」
「いや、無粋だったか。可愛い見た目のぬいぐるみだ。助けられてよかった」

景品口からぬいぐるみを取り出し、フィンへとそっと差し出す。
icon
メーベル
「ハハハ、なるほど。動かし方は直感的だが、奥行きに関してはセンスが問われるな」
「フィン、今のは惜しかった。恐らくだが、このデフォルメされた角っこの重力が悪さをしたんだろう」

隣で燥ぐフィン。
その動作に道化としての側面ではなく、少女としての声色を感じたのか、
怒る彼女を見て純に微笑む。

「だが、君のお陰で星の導きが完成した。少し見ていてくれ」

ポンッと彼女の頭に手を一度だけ置き、筐体のボタンに手を添える。
icon
フィン
そして何事もなかったかのように、フィンが示した星型のぬいぐるみが囚われているクレーンゲームに向き合うメーベル。
彼のすぐ側にぴったりと沿うような場所。互いの肩が触れ合うようなところに位置取り、動くクレーンを見て表情を緩めた。

「あ、やっぱメーベルさんってあんまこういうとこ来ないって感じだよね?」
「なんとな~くそう思ったんだよね~。だから今日は、星の王子さまにぜひとも庶民の遊興も楽しんでもらおうと思いまして」
「ふふっ……♪」

やや芝居がかったような言い方をし、メーベルが動かすぎこちないクレーンを見て口元に手を添えて笑う。

「あのねメーベルさん、ちょっと手の力抜いてくれる?」

そう言って筐体のボタンにかかった彼の手に自分の手を重ねた。

「こーやってここまで押して~……そんでもって隣のボタンをこれくらい!」

メーベルの手の上から操作を代行し、いい感じの位置までクレーンが動いた。

「よしっ! あとは取れるかどうか……! お願いお願いお願い―――」
「―――ぎゃあ~~~!!!😭😭😭」

クレーンは星型のぬいぐるみを掴むが―――ぽろりと落ちてしまう。

「もぉ~~~っ!!なんで取れないの!?意味わかんない! 今の見たでしょメーベルさんっ、ぜっっったい惜しかったのに~~……っ!!」

ぷんすこと怒りながら、怒りの発露かその場で身をよじるように地団駄を踏む。
肩が触れ合うほど近いため、黒いリボンでくくった白髪の房やらその重量感を誇るようにピンと張った胸元が時折ぶつかるが、本人はそれどころではないらしく気にしてないようだった。
icon
フィン
(ん、手……っ)

頬に添えられていた手が離れていくことに名残惜しそうにし、細めていた目を開いて彼の手の行く先を目で追い……

「……ん……?(計測器くん?)」

\ガッシャアアアアアーーーンッ!!!!/

「へぁ!??!?! 計測器くーーーーーん!!!!(汗汗汗)」
「な、なんか初めてダイナーで会ったときよりも2人(1人と1個)の仲悪くなってない!?!?!」
icon
メーベル
「星型のぬいぐるみか……確かに、助け甲斐のある愛らしい見た目をしている」
「どれ、姫君が助けを求めているんだ。最善を尽くすさ」

                                    >カチカチカチカチ!!!!

「この手の遊具……そもそも場所か。喧騒に塗れた遊びに身を投じるのも久々だ」
「まずはこれか」

コインを投入して、クレーンを動かしていく。
ガタガタとアームの根本を揺らす様は、明らかにゲームに慣れていない世離れしたような腕前であり、
誰から見ても『へたくそ』に見える有様であった。

「難しいな。アームの位置が明後日の方向に行ったぞ……」
「これは星相の調べよりも困難だな。黄道軸に聳えた鉄塔でさえ、風邪を引いた犬でも見付けられるというのに」
「もう一回……」

そうして不慣れながらも、クレーンゲームに熱中し始める。
何処か童心めいた、純粋に楽しんでいる様子は、
筐体の向こう側のぬいぐるみを取ろうと必死になるゲーム好きの男性そのものであった。
icon
メーベル
「……?あぁ……何を謝っているのかと思えば……」
「安心してほしい。俺は決して憤りなど感じてはいないし、其れは決して――」

カチカチ(ꐦ°᷄д°᷅)

彼女に添えていた手を離し、計測器を手に取る。
フィンが指示した筐体の、その横にあるクレーンゲームの中に

ガッシャアアアアアーーーンッ!!!!

計測器をぶち込んで、お菓子の山の中に沈めた。


カチカチ!!!😭😭😭
icon
フィン
(手……おっきいな……)

頬に添えられた手にあの日の温もり、あの日の優しさを思い出して目を細める。

「……あ、あのね? なんであんなメッセ送ろうと思ったかっていうと……」
「ひ、暇すぎてさ~……思いついちゃって。思いついちゃったらもう、やりたくてしょうがなくなっちゃって……((」
「でもね!”たすけて”のところはちょっとホントだから……!」
「見てこの星型マスコットのぬいぐるみ! メーベルさんにはぜひコヤツを助けてほしいの!」

フィンが隠れていた筐体に指を差すと、星型のマスコットがころんと転がっていた。
ようは、クレーンゲームでぬいぐるみを取るの手伝って! ということらしかった。
icon
フィン
「~~~……っ」

頬に手を添えられながらこちらを覗き込んでくる瞳から逃げるように、気まずそうに視線を左右に泳がせる。

「……うん、ない。ホントのホントに、そういう怪我とか、ないから……」
「その……ごめんなさい」

しおらしく観念したように謝罪を口にした。
自分の軽はずみな悪戯がここまでメーベルを困らせたのだと知り、少しづく声のボリュームが落ちていった。
icon
メーベル
「……なんだ……良かったよ」

安堵に加えて、彼女もまた、想像と異なる自身の言動に何処か気まずさを示している事を察知した。
首元を抑え、やれやれポーズを取った後、可愛らしく顔を出すフィンの元へと歩んだ。

「すまない、君が描いた星の導きとは異なる旋律を奏でてしまったかな」
「最早聞くのも馬鹿らしいことかもしれないが、特になんもないんだよな……?」

ふぅ、と呼吸を整え、フィンの頬に手を添える。
嘗て残っていた痕が無いかを確認しながらその瞳を覗き込み、彼女の嘘が本当に嘘であったかを念のため確認する作業を行った。
icon
メーベル
「――!無事――」

クレーンゲームの筐体越し。
喧騒に塗れた空間でも、その萎縮した声色を捉え、視線を向ける。
ただ、其処に映し出されていた星座は、自身の想像していた顛末とは異なり

「……」
icon
フィン
「……め、メーベルさ~ん……こっち……」

視線は泳ぎまくっており、非常に気まずそうな表情だった。
icon
フィン
(やっっっっっっっっば~~~~~~~……)

一方その頃……メーベルにメッセージを送信したフィンはというと、クレーンゲームの筐体の陰で縮こまっていた。

(め、めちゃくちゃガチで心配してくれてない……?)
(いやまぁ、ちょっとは心配して来てくれるかな~♪と思ってアレ送信したんだけど……ひっ!!)(店内に響いた『フィン!何処だ!』の声にびくっと肩を跳ねさせた)
(ふぁ~~~ヤバい……!無理、いま普通に出ていくとかガチで無理……!!)
(だって、いつもみたいにキザ~な感じで来ると思うじゃん!本気で心配されるとは思わないじゃん~~~……!!><。)
(うぅ…………でも、このままじっとしててもメーベルさんを困らせるだけだし……)
(……くぅ……お、怒られる、かな……怒られるよね……んじゃ、怒られますかット……へへ……)

そう胸の中で決心し、クレーンゲームの筐体からそろり……と顔をだしてメーベルの視界に映り込んだ。
icon
メーベル
騒めく街中。其処に佇むネオンに輝く遊び場。
その入り口を前にして、七色に点滅を繰り返す看板を見上げつつ、手元の端末に浮かび上がる写真と照り合わせる。

「写し絵が示すはこの座標」
「スターギアの開放を視野に入れる。入り次第フィンを見付けるぞ」

カチカチ。

計測器が鳴り響くが、その音を無視してゲームセンターの中へと早足で入店する。
街中とは異なる、電子音が散りばめられた異空間で、耳を痛めながら目を細めて店内を見渡した。

「おい、フィン!何処だ!」

らしくもなく、声を張り上げながら胸元に計測器を押し込む。
一部の客が振り返るが、その注目に対して一瞥をやる事も無く。
そして、いつでもその竜頭を押せるように、常に手を添えながらある輪郭を店内の入り口から探し続ける。
icon
名無しさん
――― 駅前のゲームセンター ―――
icon
メッセージアプリの画面
\シュポ/  メーベルさん

\シュポ/  たすけて

フィンとのトーク画面に連続して届いた2つのメッセージ。

\シュポ/

次いで最後に送られてきたのは、駅前のゲームセンターを映した1枚の写真だった。
落としたスマホから撮ったような不自然な画角で、ただ事ではない事態を予感させるには十分だっただろう―――。
icon
コトハ
「な、なんだかよく分からない人だったなぁ~」
「優しいのかな?それとも裏の顔?で、でも……どちらにせよ……」

再び目の前に広がる食卓に視線が傾く。
其処に映された黄金郷の魅力は何事にも代え難く、
ルシェの報酬分の働きという部分を楽観的に考える程に食欲が勝ってしまい

「い、今は……とにかく全部食べてしまおう~」
「よ、世の中なんとかなる~」
「未来の私、よろしく~」

バクバクと、それも幸せそうに、口元を汚しながらも大量の皿を空にしていくのであった。
icon
コトハ
「う”……」

ルシェの声が僅かに下がった時、ややビクついて目を細める。口は止めない。
そうして彼の手が示す空の皿に視線を落とし、そのまま視線は真横に向いて決して目を合わすことはなかった。

「え”……あ、後払い制度……き、聞いていないよ~(。º̩̩́⌓º̩̩̀)」

(こ、この人の為に働く……な、なにされるんだろ……)
(……される?されるっていうよりかは、してあげるなのかな)

そうして彼が立ち上がり、目の前の御馳走達の金銭が目の前に現れると、
いよいよその報酬分の働きをせねばならない事を突き付けられた気がして、
より目を細める。

「う”……お、お手柔らかにお願いします~」
「よ、世の中厳しすぎ――ビクッ!」

通り過ぎ様、軽く叩かれたことに驚きを示し、背筋がピンッと反応する。
口の中に含んでいた食事が僅かに口から零れ、反応に示して揺れ動いた胸元に零れてしまった。

「あ、あぁ~……勿体ない……」

そういいつつも、指先で拭き取って口に戻した。
icon
コトハ
(え”、なんでこんな笑ってくれてんだろ……)
(いいなぁ、私もこれだけ豪快に笑えたらなぁ……)

遠慮なく高らかに笑うルシェを前にして、手や口を止めずにその様を眺める。

(あ、うな重が空になってしまった……幸せはすぐに去っていく~)
icon
ルシェ
笑顔をそのままに、声の温度がわずかに下がる。

「『相席』が任務になるなら、普通に考えると、本来の依頼料以上の報酬が、君の胃袋の中に収まったことになるよね?」
「だって相席するだけだよ?」

そう言って、空になった”うな重”の皿を指先で触れる。

「そして胃袋の収まった食べ物はもう出てこない……だったら、その先に受け取ってしまった報酬分は、僕のために働いてくれないと……」
「って話に、なるよね?」
「―――ま、この話はまた次回にしようか。今日は様子見だけのつもりだったし、あんまり長居してもアレだからね」

そう言いながら席から立ち上がる。
財布を取り出し、卓上に代金を置く。

「また来るからさ、その時、僕とじっくり話し合おうよ」
「君、つまらなくないね。本当に声をかけてよかったよ―――じゃ、またね。コトハちゃん」

コトハの横を通り過ぎる瞬間、彼女の肩をトン……と軽く叩き、その場を後にした。
icon
ルシェ
「くっ―――あっはははは!」
「すごいな……! やられたよ、君の勝ちだ!」

次の瞬間、ルシェは目尻に涙まで浮かべて笑い出した。
彼女を咎める様子はなく、ひいひいとなんとか笑いをこらえようとして口を開く。

「店の入り口から見かけた時から、君はもう少し扱いやすい子だと思ってたんだけどね! まさか僕が振り回されるなんて、人は見かけによらないものだなぁ!」
「あぁいいとも、好きなだけ食べるといい!」
「だけど―――」
icon
ルシェ
「―――え」

さすがに予想外だったようで、
豆鉄砲でも食らったような顔でもぐもぐと美味しそうに食事を進めるコトハを見ていた。
icon
コトハ
「え”。°(°.◜ᯅ◝°)°。」

ルシェが言葉を投げている頃。
既に自身の好む食事に手を付けており、口いっぱいに頬張っていた。
目の前に並べられた食事に感動するとか、許可を得るとか、それ以前の食い意地である。

「ングング……だ、だってぇ~……相席のお誘いをタダで受けるとは思わないじゃないですか~……」
「えと……その……あれ、あれだ。この欠けた月亭では~~~相席も依頼の一つとして受注されるので~~~任務なんですよね、任務~~~(嘘)」

ルシェの悪い笑みにも負けないよう、頑張って練った嘘を付きながらも『勝手に』食事に手を付けていく。

「おいひぃ~♪」
(今日の占いで強気に行けってあったから大丈夫のはず~、世の中味方してくれるはず~)
icon
ルシェ
「うん、すっごくいい匂いだ……さすがはコトハちゃんのオススメたちだね」

ほかほかと湯気を立てる料理たち。
1人で食べきるには明らかに多いくらいの皿が、コトハとルシェのテーブルに並んでいた。

「ふふっ……にしてもコトハちゃん、食事をしっかり楽しむ準備をしているところ悪いんだけどさ……」
「相席をしてほしいとは言ったけど、僕は一言でも、『キミにご馳走するよ』なんて言ったかな?」

人好きのするような笑顔に影が差し込み、わざとらしく首をかしげた! 悪い男である!
icon
ルシェ
「コトハちゃん……いい名前だね」
「この”欠けた月亭”に在籍する冒険者で、様々な任務をこなすって……」
「へぇ、すごい! じゃあエースみたいなものじゃないか! そんな人と席を共にできるなんて、僕はついてるなぁ」

彼女の見栄を知ってか知らずか、楽しそうに笑いながら奪ったメニュー表をパタンと閉じた。

「そうだね、そろそろ食事にしよう!」
「やはり先達の言うことは聞いておいて間違いはないからね! アンテロープステーキに、鰻……それに身体が温まりそうなスープでもつけておこうかな」
「すみません! 注文いいですか~?」

\ は~~い! ただいまなのです~~~!! /

手を上げて看板娘を呼ぶと、カウンター側から明るい声が返ってくる。
それから注文を終え、しばらくの時間が過ぎ―――
icon
コトハ
「え”……な、名前……」
「わ、私は詩葉(コトハ)と言います……」
「一応此処の冒険者として在籍してて……い、色々……もうそれは色々な任務を全部やってます~~~(嘘)」

見栄を張る。
自身や世界を悲観しているのはいつものことだが、それはそれとして、
彼女は自身を小さく見られることを好ましく思っていなかった。
それ故に、初対面であるルシェに対して「欠けた月亭ではエースなんすよ」的オーラを出そうとしていた。

「え、えと……名前もお互い分かったことですし~」
「そろそろお食事したいな~なんて思ったりするんですけれど~」
「あ!ここのアンテロープステーキは格別なんですよ~、調理師の方が凄腕でして……」
「お、オススメは鰻(!?)とか……あ、それは私の食べたいもので……」
「えと、え~、と、とにかくお腹に溜まるものを頼むといいですよ~」
「食べきれなかったら私が処理――いただきますので~」

食事にありつこうと必死に口を回し始める。
既に両手には箸、手元にはフォークと、食事を楽しむ準備はしっかり整っている。
最早、客人をもてなそうなどという考えは微塵も無く、ただ食欲に支配されているかのような
そんな雰囲気を隠すつもりもなかった。
icon
コトハ
「る、ルシェさんって言うんですね~」
(装い的に後方支援の人かな~……でも依頼も無いのに月亭に来るなんて、珍しい~)
「――あ」

手元にあったメニュー表が、ルシェの元へと奪われてしまう。
何を頼もうか必死に考えていたが、それが出来なくなり

(よ、世の中甘くないんだ~)

謎の悲観が訪れる。
icon
ルシェ
「―――テーブルまで拭いてくれてありがとね。さて……」

ゆっくりとコトハの対面に座り、自分の胸にトンと手を当てる。

「僕の名前はルシェ。他に自己紹介できることは……そうだな、ただの客だよ」
「今日のところはね」

含みのあるような笑みを浮かべ、コトハが片手に持っているメニュー表をひょいと取り上げて中に目を通す。

「キミはなんて名前なの?」
icon
???
「うんうん、歓迎してくれて嬉しいね。こっちの席かn―――」

(………………基本信じてないけど、今日だけは神に感謝……)

目の前でいそいそとテーブルを拭いてくれる無防備な少女の後ろ姿に、静かに両手を合わせた―――。
icon
???
「おっと! あはは良い食いつきっぷりだnゥワアォウ!?!?!」

この青年はわずかに触れた感触を逃しはしなかった!
突如として奇声とともに身体が微動し、目をパチパチと瞬かせた。

(お腹空いてそうな気がしたから、食事を分けるついでに色々聞かせてもらおうと思ったら……まさか大当たりのカードだったかな……!?)
(ていうかすご!!! デカいっていうか長かった!!!)

ブンブン!と握手をしながらそんなことを考えていたのだった。
icon
コトハ
(ら、ラッキ~だ~。なるべく情報が揃わない内に相席させて、奢ってもらうしかない~)

「え、えと……」

セルフ用に用意されていた布巾を手に取り、テーブルをいそいそと拭き始める。
前屈みになって一生懸命なその姿勢から垣間見える白。
スカートの丈の短さが仇となっている事さえ気にも留めない豪快ささえあった(?)

「ご、ご用意出来ました……こちらにどうぞ……」
「えーっと……」
「……」パクパク

自分の名を名乗ろうとしているが、口を縦に動かすだけでまともに発声が出来ていない。
にも拘わらず、既に席についており、メニュー表を片手に青年へと対面に座るよう誘導していた。
icon
コトハ
「ささ、こ、こちらへどうぞ~」

最早有無を言わさない勢いで席に案内しはじめた。
icon
コトハ
「し、食事……!!!」

突如出てきた単語に、眉を曲げて口を「オー!」と開く。
青年が取った距離を縮め、ズイッと接近した。
その興奮した様は傍から見ても分かるものであり、自身の大胆にも膨らんだ胸部装甲の一部が、
目の前の彼に僅かに触れた事も気づかずにいた。

「も、もちろん!!ちょうど私もお腹が空いていたので!!!」

餌に食いついたかのような子犬。
そういわんばかりに興奮した様子を見せ、彼の手を取って数度ブンブン!と縦に振り、即座に離すと背を向ける。
icon
???
「あ、ごめんごめん! 急に声をかけられて驚いたよね」

コトハのコミュ障ムーブを見て目を丸くしながら一歩だけ距離を取り、安心させようと試みた。

「で~……ええっと、キミ~……に話しかけてるんだけど~……? く、くくっ……」

コトハが懸命に「自分以外に話しかけているのではないか?」と確認する姿を見て、吹き出しそうになるのを口元に手をやってこらえる。
そしてようやく会話が始まり、人好きのするようなにこーっとした笑顔で頷きながら口を開いた。

「なるほどなるほど! まぁなんでも大丈夫だよ(?)”たまたま今日来てみた”って人じゃないならね」
「そしてボクは依頼を出しに来たわけじゃなくて……今日のところは食事をしにきただけかな?」
「一人で静かに食べるのも良いんだけど、良かったら相席してほしいなぁと思ってさ! どうかな、ダメ?」
icon
コトハ
「あ、あっははぁ……」

最早ただ「にへら」と笑うだけで、青年の問いに対しての返答が中々返ってこない。
ピピピと汗をコミカルに飛ばしながら、左右、はたまた前後を振り向いたりして、話かけられたのが自分である事を確認する。

「……えと……こ、こんばんは~。常連といいますか、スタッフといいますか……」
「……スタッフ?えーっと、依頼遂行者?なんていうんでしょうか~」
「まぁなんでも大丈夫か~(?)えと、ギルドへの依頼とか、ですか?」

たどたどしさ全開ではあるが、青年へと要望を聞こうとする。目は合わない。
icon
コトハ
「え”……?あ、えと、お客さん……」

(フィリカさん呼ばなきゃ――って、え?時間をくれないかって、私に言ったのかな?)

誰かから集ろうとしていた矢先、見知らぬ青年が目の前で挨拶として最適な笑みを見せている。
隠密系統の出であることや、自身の影の薄さを認識している事から、まさか声を掛けられるとは思っていなかったため

「あ、あ……あ……」

びっくりするぐらいのコミュ障ムーブが炸裂した!
icon
???
青年の視線は、ふらふらと放浪する少女でピタリと止まる。
軽い笑みを浮かべながらコトハに近寄ってきた。

「や、こんばんは。キミ、ここの常連さん?」
「暇だったらでいいんだけど、良かったら僕に少し時間をくれないかな」
icon
???
カランカラン……

「ここが欠けた月亭か……」

その時、ドアベルとともに欠けた月亭の扉が開く。
入ってきたのは見慣れない青年。くすんだ頭髪に、金の瞳。
彼は入り口で足を止めたまま、酒場をひとしきり眺め……
icon
コトハ
「……(`・ω・)(ちょっと普通に歩いてみよ)」

猫背だった姿勢を正し、いわゆる良い姿勢を心がけて歩いてみる。
ただ、目下に佇む二つの影が、歩くたびに振動し、最早視界を妨げており

「……(・ω・`)(床見えないしいいや……)」

結局、内気で弱気な、小動物のような存在感を出しながら、放浪とする
icon
コトハ
「く、く~……なんでだ~……今日の占いには『強気が行けば運が回ってくる』って書いてあったのに~……」

「世の中絶対おかしいんだ~……」

涙を拭かず、うっ、うっ、と泣きながらトボトボと猫背でギルド内を歩く。

「今日は雑草かな~……煮て食べればなんとかなるけど、でももっとたくさん食べたいし……」

「だ、誰か、頼みやすそうな人とか居ないかな~……」
icon
手練れの冒険者
「馳走になった、フィリカ。ギガントードの水炊き、英気を養うに最適だった」

泣き喚くコトハに一瞥もくれず、立ち上がりながら受付側に声を投げかけ、装備を手に持つ。

「カリスタ嬢、監督業務の完遂、ご尽力忝い。伴って同行させたシグにも礼をしたいのだが――」

\おぉ、君か。まぁ掛けたまえ/

そうして金髪の装いの女性の元へと装備を鳴らして歩いて行く。
icon
コトハ
「し、しょんなぁ~˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚」
過去ログの保存