カオスドラマFor

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ヴルーム
「……」

(滅茶苦茶迸ってるぞ、カチャリ……)
(少なからずメイドがしていい圧じゃないが……)
(しゃーない。あんま苛めると工房出禁とかになりかねないし、触れないようにしておこう)

「そうだなぁ……」
「おまかせしようかな!なんか定番の奴とかでもいいぜ」
「カチャリの好きなもんでもいいし、俺が好きそうなもんでもいい」
「俺の好きそうな奴はちょっと難しいか」
「まぁ客の無茶ぶりだと思って応えてくれるなら、嬉しいかな」

目の前に配膳されたオムライスに視線を落とす。
これからどのような絵が描かれるのか心待ちにしながらも、
早く食べたいというウズウズ感も隠しきれていなかった。
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カチャリ
それからややあって―――

「お待たせしましたご主人様っ♪」
「こちら、カチャリちゃん特製の萌え萌え♡ご主人さまの愛情オムライスで~す♪」

『さっきのことは忘れろ』と言わんばかりのドカ快活メイドモードで帰ってくる。
オムライスとシンプルなお茶をヴルーム側とその向かい側に丁寧に置き、ケチャップボトルをさっと構える。

「まだ食べちゃダメですよ~? これからカチャリちゃんが、とびっきりの魔法をかけちゃいますから♡」
「なにか描いてほしいものはありますか? カチャリちゃんにお任せでも大歓迎ですよっ♪」

(忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ……!😠)
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ヴルーム
「……」

カチャリの最後の台詞が、脳内でリピートされる。
何とも言えない気恥ずかしささえ感じる台詞が、やけに色を帯びていた。

「……ん~……でも侍女達には居なかった反応だったなぁ……」
「目線は何処か、俺じゃなくてもっと異なる権力の方に行ってたけど」
「……新鮮だったな」
「バレないように見よう。見るだけタダだろうし」
「変な事さえ云わなきゃいいわけだ」

備え付けのカトラリーを探す。
だが、手元には食器の類は無く

「……これも待たなきゃなんねぇのよね」
「所作、むず過ぎる」

彼女が、自身の好物となったものを持ってくるのを待った。
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ヴルーム
「……💦」

まさか赤面しつつ怒られるとは思っていなかったのか、引きつった表情で彼女を見上げる。
好んで露出の激しいメイド服を着ているものばかりだと彼は思っていたのか、
彼女のその反撃に対してどう対応すべきなのかが分からずにいた。

「い、いや、意図的ではないにしろ、まさか其処まで反応するとは……」
「――って、おいカチャリ~!」

捨て台詞を吐き、厨房へと向かった彼女の背を見続けるだけ。
ため息を一つ落とし、頬杖を付く。

「参ったな。あれサービスと違うのかよ」
「自分の武器を理解してんのかしてないんだか分からんなぁ」
「……機械設計の知識に羞恥心とか吸収されてるもんだと思ったけど」
「なんだ、あーして恥ずかしがる所みると、女の子じゃねーか」
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カチャリ
「……えっち」
最後に弱々しくそう吐き捨て、今度こそ厨房へ向かっていった。
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カチャリ
「――――――っッ!?!///」

バッ!!と注文票を胸元に押し当て、顔を真っ赤にしながら勢いよく上体を起こす!

「や、やってるわけないでしょこんなこと!? メイドカフェは健全なお店なの!!」
「な~~~~にが『ごちうそうさま』よ!」
「いい!! 次に変なこと言ったらケチャップボトルをアンタの口にぶち込んでやるからね!?」

がーっ!と一気にまくし立て、逃げるようにそっぽを向いた。
そのまま脱兎の如く厨房へ駆け込もうとするが……足を止め、肩越しに少しだけ振り返る。
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カチャリ
(フッツーーーーーーにド感想を返されたわ……)
(このカチャリ様の美声であま~く囁いてやったのよ?)
(普通ちょっとくらいドキッとするでしょーが!)
(苦し紛れで言ったキュンガまでイジってきやがってぇぇえぇえぇ~~ん……!!)(全身の血管ブチブチブチブチ
(……ま、でも普通に味は褒められてるし、いっか。嬉しかったし)
(アタシの心が広いお陰で命拾いしたわね)

「ふんっ、とっても嬉しい感想をありがと」
「じゃあオムライス作ってくるから―――」

と、『それ他の客にもやってんのか?』という指摘。
疑問符を頭に浮かべ、ヴルームの視線の先と自分の無防備な体勢を確認し―――
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ヴルーム
「――ん?」

唇の動きが分かる程、空気の振動が耳を覆う。
呼吸も声も、その僅かに消えてしまいそうな旋律を描いて耳を刺激する――はずだったが

「あぁ、美味かった」
「なんてーのかな、こう……ガッツリ行ける感じ」
「胃袋に直接味を染み込ませるようなコクというか」
「いい意味で庶民的な……親しみやすいオムライスだったな」
「キュンガだっけ。アレの効果は絶大だったぜ」

その囁きに対して、狼狽えもせずに真っ当に返答した。
ただし、視線は抗えない程に中央の空間へと引きずり込まれていた。

(エロすぎるな)
(正直気が気じゃねぇけど、理性は保っておかないと)
(そういう店ではないし……はぁ……)

「……それ、他の客にもやってんのか~?」

自制の為でもあり、カチャリの無防備な部分が晒されている事を、
冗談ぽく指摘する。

「飯食う前に腹いっぱいだっての」
「まぁ、合掌の前にごちそうさまってな」
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ヴルーム
(持ってるもんが立派すぎんだろ……)
(西方の遠征時に立ち寄った酒場の……ディアンドルだったか?あの系統の給仕服に似てるな)
(クラシカルメイドにしか囲まれた事なかったけど……こりゃメイド喫茶にハマる奴の気持ちも分かるわな)
(カチャリ、人気ありそうだよな……そう考えるとちょっと――)

もじもじと身を捩る彼女を凝視。形取るその線の縁を瞳に入れ込む。
柔く変形する様を見て満足したのか、目を伏せて「フッ」と謎の笑みをテーブル下に零した。

「酒の類はまた今度だな。俺下戸だから、ちょっと飲んだだけで酔っちまって――」
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カチャリ
「それにしてもー……」

カチャリの目は、ブルームが指さすオムライスの写真。
カチャリ自身が作り、提供した料理。
なんとなく得意な気分になり……

「……気に入っちゃったんですか?♡ カチャリが魔法をかけたオムライス……♡」

瞼を僅かに下ろしながら先の仕返しか、
耳元に顔を寄せて口に手を添え、からかうような表情で甘ったるく囁いた。
座っている彼に対して前傾姿勢になっており、胸元のゆるいメイドドレスではやや支えが弱く、
重力に倣って豊かな双丘がまっすぐに下がっていた。
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カチャリ
「えっ、いいの!? 共食オプション!?」
「カチャリ嬉しいですっ!♪ ドリンクはなににしますか?」
「お車でのお越しでなければ、アルコールの提供もできますよっ♪」

注文票を目にも止まらぬ速さで抜き出し、「オムライス2、共食オプション!」と書く。
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カチャリ
「アンタねぇ……」
「そういうとこよって言ってんのわかる……?」

あまりにもストレートな物言いに、視線を彷徨わせてもじもじと身をよじる。
メイド然とした前で手を重ねるようなポーズだったため、メイド服の仕様上大胆に開いた胸元が自分の二の腕に挟まれ、ふにょふにょと形を変える。

(他の客に取られるかもしれないだの、どーだの)
(それでなんでソワソワしちゃってんのよアタシも!)
(くっ……たぶんヴルーム本人的には全く深い意味もないんでしょうね……たちの悪い……!)(ぉ

と、なんとなくヴルームの所作に目が行く。
妙に手慣れているというか、もてなされることに慣れた人間の雰囲気を感じる。

(……ヴルーム、って―――)

思案にふけようとした時、ヴルームからの注文にハッと顔を上げる。
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ヴルーム
「別に驚かせたくてそうしてる訳じゃないんだけどな」
「ほら、あの場でカチャリの相手をしてもらう事アピールしないと」
「他の客に取られちゃうかもしれないだろ」

案内された席。
自然と上座側に腰かけ、パーカーのポケットから手拭いを取り出す。
手首をやや超えた位置まで、丹念に手元を清潔にしながら、カチャリに視線を上げる。
まるでメニューを、前菜を、パンを持ってこいと言うような、お高い雰囲気が一瞬現れるが……。

「……」

スチームテイルの動きに反応して、目を細めて小さく笑う。
そして自身が放っていた空気が場違いである事を察する。

「……やべ」
「わりぃ、メニューこっちにあんだよな」

冊子が並んだスタンドに手を伸ばし、メニュー表をテーブルに乗せるようにして開く。

「今日は金持ってきたんだよ」
「オムライスと好きなドリンク」
「一緒にどうだ?最近一人で飯食ってて寂しいからさ」

メニューにプリントされたオムライスの写真を指さす。
以前カチャリに振舞ってもらったそれであり、気に入っている様子が伺えた。
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カチャリ
「おかえりなさいませっ、ヴルームご主人様♪」
「ご指名ありがとうございます♪ すぐに席へご案内しますね、こちらへどうぞ~♪」

すぐさま営業スマイルへ切り替え、甘い声で挨拶をしながらスカートの裾をつまんで可愛らしく一礼をする。
そのままヴルームを連れ、端のやや奥まった席へ案内する。
周囲の好奇の視線が切れたところで、ほっとしたようなため息をついて肩ががくっと落ちた。

「ほら、座んなさい」
「まったく、アンタの行動には驚かされっぱなしよ」

そう言いながらも、カチャリのスチームテイルはどこか嬉しそうに小さく振られていた。
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カチャリ
ビュンッ!!!

その速さ実に0.3秒。
抱えていた皿などを厨房へ置いて場に帰ってきて、ふわふわと宙に浮いていたヘッドドレスがすぽんっとカチャリの頭にハマる。
そのままスタスタとヴルームの側まで歩み寄り―――

「ちょ、ちょっとアンタあんま大声で言わないで……!」
「そういう言い方すると変な誤解されちゃうでしょーが……!」

ヴルームの耳元に顔を寄せ、声を抑えながら言う。
実際に周囲のメイドや客から視線を集めてしまっており、汗を浮かべながらコホンと咳払いをしながら一歩下がる。
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カチャリ
ピュンッ!!

メイドのヘッドドレスだけをその場に残し、瞬間移動かと見紛う疾さでその場から消える。
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カチャリ
「―――!」

(ヴルーム……!)
(来てくれるかもしれない、とは思っていたけれど)
(まさか本当にアタシを探して来てくれるなんて―――しかも――そんな――大声、で―――)
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ヴルーム
「居た居た!あ、ごめんな。あそこのメイドと『約束』してて……対応サンキューな」

出迎え口で対応してもらったメイドに「わりぃ」と手でジェスチャーをすると、やや強引に店内へと足を踏み入れる。
そうして手を上げて、左右へと余裕のある速度で振り始めた。

「よ、カチャリ!」
「指名には金と信頼が必要なんだってな。片方持ち合わせてなかったみたいだわ」
「というわけで、ご主人様になりにきたぜ」

ハハハ、と爽やかに笑みを浮かべつつ、バッシング中のカチャリにやや遠方から指名する。
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ヴルーム
「え、指名って光画(さつえい)だけなの?」
「あぁ、常連ならまた違うのか」

カチャリの視線の先。
入り口で出迎えてもらったメイドと会話をこなしている。
その内容は特定の人物を探しているような物言いで、
朗らかではあるが何処か困ったような表情をしていた。

「マジか。てっきり侍女達のように代わるがわるで声を掛けられるもんだと思ったんだけど」

そうしてメイドと幾度か会話を交えている最中、視線の端で頂点へと立った機械尾が見え、
そちらに視線が移動すると共に、口角が柔和に緩んだ。
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カチャリ
「は~い♪ ただいま向かいま~す!」
「さ、仕事仕事っと―――」

\ カランカランッ♪ /

その時、来店を知らせるドアベルが鳴った。

「おかえりなさいませっ、ご主人様~♪」

反射的に営業スマイルを浮かべ、店の入り口へと振り返る。
そして、そこに立つ人物を目にして、

「―――……!」

カチャリのスチームテイルがピンッと持ち上がった。
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メイド
「カチャリちゃ~ん、3番テーブル下げてきて~!」
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カチャリ
(そういえばアタシたち―――お互いに連絡先知らないじゃない!!)
(ばか!! なにやってんのよも~~~~!)

ツーとコミカルに涙を流しながら過去の自分にツッコむ。

「……ま、工房が見たかったらまた来てくれるでしょ」

肩を落としながら小さく呟き、空いたテーブルの皿を重ねてトレイに乗せる。
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カチャリ
「おかえりなさいませっ、ご主人様~♪」

カチャリはメイド服に身を包み、店内を忙しなく動き回っていた。
料理を運んではケチャップで絵を描き、素の本性をみじんも感じさせない”カチャリちゃん”を演じている。

「―――はいっ、これで愛情たっぷりです♪ どうぞ召し上がれ、ご主人様っ」

完璧な営業スマイルを浮かべて料理を差し出しながら、ふと店の入り口へ視線を向ける。

(ヴルームと一緒に警察官から逃げて、もう数日)
(あいつ、アタシの技師としてのロマンが少しは分かるみたいだったから、工房を見せる約束をしたけど……)
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名無しさん
――― とあるメイドカフェ ―――
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ルシェ
「……ウゥン……は、早めに依頼に着手した方がいいかもしれないな……」ゲッソリ
「あ、そうだ。フィリカさん……ですね? 僕は流れの旅人で、しばらくこの辺りに滞在するつもりでして」
「今後、僕も月亭を通して冒険者向けの依頼を受けたいのですが―――」
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フィリカ
「ア!!!!お客さま! 合計で(ピーーーー)円なのです~~~!!!」
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ルシェ
(なるほど、誰かとパーティを組むこと自体が初めてだったんだ)
(そういうことなら、この彼女から溢れるドカ緊張も納得かな)

口元に手をやって小さく笑い、彼女の不安を受け止めるように柔らかい表情を向ける。

「分かった。まずはその依頼でお試しといこうか」
「君の実力は重々承知しているけれど、慣れないパーティで最初から上手くやろうとしなくていいからね」
「むしろ僕がお荷物にならないように気張らなきゃ」

言ってから、やや頼りない腕をまくる仕草を見せておどける。

「今日は良い日になったよ、それじゃあ―――」

そうして別れの挨拶を交わそうとしたところで、ほんの刹那。コトハと視線が合う。
初めて正面から覗いた彼女の瞳を見て僅かに目を見開き……すぐにいつもの人好きのする表情を重ねる。

「うん、僕も楽しみにしてるよ。またね、コトハちゃん」

(さて……初めての協力者か。ふふっ、彼女はどんな表情を見せてくれるのかな)

彼女が走り去っていく背中を見送る。
席について静寂の余韻に浸ろうとしたとき……テーブルに並んだ数々の皿に視線が落ちる。

「……これ……全部でいくらだっけ…………?」
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ルシェ
(判断が早すぎる!!)

「ほ、本当!? 嬉しいなあ、よろしくねコトハちゃん!」

”食事手当”を持ち出した次の瞬間に手を取られ、コミカルな汗笑いを浮かべながら握手に応じる。

(ご飯ひとつでここまで警戒心を投げ捨てられるものなのかな?)
(……ま、このわかりやすさは嫌いじゃないけどね)
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コトハ
「ご、後日に斡旋して頂いた依頼がありまして」
「その時にパーティを組んでみて、とりあえず……一緒に依頼をこなしてみましょう」
「ルシェさんの欲しい土地の情報とかも、其処で更新できると思うので……」
「えと、あの……なんか、急に動悸が……」

彼から離れるように席を立ち、あたふた、くるくるとその場でウロウロしながら、
肘を抱くように両手で胸の下を支える。

「そ、ソロ専だったので……パーティ組んで依頼……初めて……なんです……」
「そ、その……楽しみにしてますね……」
「で、では……御馳走様でした、ま、またね」

期待、同時に後悔や不安も兼ね備えた声色と表情でルシェに挨拶を告げる。
その間、僅か、ほんの刹那ではあったが、目線がルシェの瞳へと向かい、にへら、とはにかむ。

(お代気にしなくていいのサイコーだ~)

宿屋に繋がる二階への階段へと、走っていった。
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コトハ
(そ、そんな提案されたら私、断れないよ~!)
(は、反射的に言ってしまった~!で、でも、私に有利になるように取り計らってくれるっぽいし)
(きっと大丈夫~、私は言われた事を尽くしていけばいいだけ~)
(生活は安泰……するはず。きっと大丈夫)
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コトハ
「よ、よろしくお願いします~」

食事手当というあまりにも魅力的すぎる提案が出た瞬間、
彼女が警戒、不利と成り得る状況、それに伴う対価など度外視して、
再びテーブルを超えるように身を乗り上げ、彼の手を取って握手しながら縦に数度振る。
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コトハ
「――……!!」
(分け前有利!?)
(依頼内容もかなり簡単。伝聞程度の情報でもいいってことは、報告書の類も極小)
(生活が潤沢になる可能性が!?私もついに正社員(?)に!?)
(屋根裏生活もおさらばできるし、稼ぎによっては防音室だって……)
(で、でもダメ……まだ会って間もない人の話を鵜呑みにしてはならない~)
(そう、私はあくまで慎重に事を運ばなければ~)
(危ない危ない。世の中危ない人だらけ~)

「ま、まぁ、後日に考え――」

\食事手当なんか/
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ルシェ
「し、心配しなくても取らないよ……?!」

ガチャガチャとテーブルに並んだ食事を両手で確保するコトハに静かにツッコむ。

「おや―――……!」

ようやく興味を持ってくれたね……! と小さく咳払いをし、やや姿勢を正しながらコトハの顔に視線を向ける。

「別に難しい仕事はないよ」
「僕はこの辺りへ来たばかりで、土地勘も人脈もまっさらなんだ」
「だから君のように土地に馴染んでいて、あちこちに出向ける人と協力関係を結びたい。情報が欲しいんだ」
「依頼や任務で出かけた先で見かけたもの、おかしな噂、変わった人がいた―――そんな程度のことでもいい」

数えながら広げた指を折る。そこでいったん言葉を切り、視線を軽く上に向ける。

「ん~そうだね~……さっきは助手なんて言い方をしたけれど、つまり平たく言うとだね」
「僕とパーティを組んでほしいってこと。依頼の報酬分配は君有利でいいんだけど、どうかな?」

(僕はそこで得た情報を別に売ってから一儲けするつもりだからね😏)

「ああ、でもすぐに返事をしなくてもいいよ! いきなりこんな話をされても、コトハちゃんの都合だってあるだろうから」
「僕が本当に信用できる人間なのか、君自身で見定めてからでも遅くない」

「……あ~、でもせっかくコトハちゃんとパーティを組めるかもしれないなら……食事手当なんかもつけてあげてもいいかもね?」

ダメ押しの一言。言ってから悪戯っぽく目を細めた。
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コトハ
「る、ルシェさんは良い人ですね~」
「こんなにたくさんお恵み――あぁいや、取引材料を提供してくださるなんて……」
「そ、その……先程言ってた助手って……」
「一体、どんなお仕事するんですかね~」
「というよりも待遇――」
「興味があるというか~、その~」
「一応、ほら。知っておいて損はない事ですので~~~」
「あくまでルシェさんの人柄を知る為の会話の流れといいますか~~~」

ミニトマトを手に取り、両手の指でくりくりと弄りながら疑問を投げる。
先よりもモジモジとしており、その動きはこの現状に『慣れていない』ことを示唆していた。
彼女は自身が良くされる傾向が薄い、且つ恵みを受けたとしても、ここまで成功したことはなかった。
それ故に、ルシェが施し続けた食事という対価が、幾度も訪れた事に、
幸せや困惑など、様々な感情が幾重にも重なっていたのだ。

「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"( ‘༥’ ) ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹”」
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コトハ
フィリカに深い会釈をして、見送る。
目の前に広がった青物や、クリームの乗ったサンデー。
これから訪れる味覚に、最早興奮気味であった。

「わ、わわわ……!」
(い、いままでお恵みは頂けたけど、こんなにたくさん貰ったのは初めてだ~!)
(こ、これだけ奢ってくれるなんて、ルシェさんは良い人に違いない~!)

ガチャガチャ

テーブルを覆うように両手を広げ、自身の食事を確保する。
奢ってもらっている分際の態度ではない。

(も、もしかすると、この人がさっき言ってた助手)
(すごく、待遇がいい可能性があるかも……?)
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コトハ
(あ、よかった。ちょうど報酬分の質問回数だったんだ)
(じゃあ私の食事だね)

ルシェに対して色仕掛けを使った自覚は無いのか、彼が高揚感のままオーダーをすることに、
「ラッキ~」ぐらいの感覚で納得した。
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フィリカ
「はいは~~い! ただいまなのです~~~~~!!!」

(あのテーブルの男、絶対ろくでもねーのです)

内心で呆れまくりながらルシェとコトハのテーブルに品物を置いていった。
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ルシェ
(しかし、彼女の神経の太さには中々手を焼く……)
(食べ物や貸しの話でちょっと揺さぶってやれば、うまいこと扱えるかと思ったのに)
(いいね、燃えてくるよ……!)

「ええっと、野菜と……そ、そのうえデザートだって?」
「ふふん、コトハちゃん? そこまで要求するなら、相応の返礼は覚悟をしてもらわないt―――」

(―――!!!???)

耳朶を震わせる甘い囁きと、前のめりになったことで視界に現れた重力にならう双丘。

(近っっっっっっっっっ)
(でっっっっっっっっっっっk)

ルシェの脳内と主に聴覚と視覚に電流が走る!!!

(アッこういう返礼もあるか!!!いいね!!!全然いいとも!!!)

「ンシェフッ!! こちらのテーブルにボウルサラダと食後にデザートを!」
「ついでにドリンクのおかわりも頼みます!! すぐに!!」

パンパンッ!と手を打ち鳴らしながらよく通る声でオーダー。プライドなどない。
うまいこと扱おうとしていた女の子に、うまいこと扱われていたのだった。
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ルシェ
「け、健康体質じゃない? 僕が?」
「コトハちゃん? あんまり偏見で物を言わないほうがいいと思うよ??」

(まるで僕が不健康体質みたいな言い方してさ、失礼しちゃうよ)
(ま! その通りわりと好き嫌いする偏食家なんだけどね!😁)

コトハ、慧眼なのであった。
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コトハ
(じ、助手ってなんだろ……ルシェさん、情報を取り扱っているから……)
(……人身売買とか……裏口タイプ?)
(い、いや……でもそんなエグい感覚はしてないし……)
(で、でも……じ、助手か~……響きはいいかも……な、なんのお手伝いするんだろ)
(あれ、てか今何個目の質問?報酬分過剰?それともまだ貰える?)

「る、ルシェさん。野菜ついでに……デザート……」
「や、やっぱり、糖分もあってこそ、たくさんお話も出来るし」
「その人の幸せにも繋がるので~、ぜ、善意だと思って是非~……」

ゴニョゴニョと籠った声。
遠方でフルフェイスに貼り付けた笑顔を警戒するように、テーブルに半身を乗せるように乗り上げ、
ルシェの耳元……とまではいかないが、顔に近づいて囁く。
前のめりになっているが故、その左右から生まれる中央の空間が、
綺麗に線を引いて垂れ下がっていた。
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コトハ
「所謂、忍者がやるような依頼は全部出来ます~( ー̀дー́ )و☄️ニンジャッ」
「そ、それと……ステーキってたんぱく源じゃありませんか」
「健康維持のための、野菜のボウルとかでバランスを取った方がいいと思います~」
「ルシェさんは、そ、その、ほら、健康体質じゃないと思うので(何故?)」
「ここは一つ栄養素となるミネラルを~~~」

最早食い物の話しかしていない。
先から助手、何日か分の貸しなど、自分にとって脅威となる、不都合に成り得る部分を切り捨てているようにも見えた。
だが、彼女の思考は後から付いてくる。
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ルシェ
頬杖をついたまま、コトハの手遊びがテーブルの上を走り回る様子を口を挟まずに眺めていた。

(氷結聖殿。聞き慣れないダンジョンだ……)
(やはりその土地が変わると、そこならではの色があるね)

(―――王都アルヴェリア)
(の、近隣にある廃鉱山。採掘できる資源が枯れてしまったために、閉山して長い時が経ってダンジョン化した場所なんだけど……)
(最近は、妙な噂が多くなった。人型の魔物が多くなったとか……王都全体もなにやらきな臭い動きが増えてるし、)
(個人か組織かも掴めていないが、”異世界狩り”なんてヤツの噂も聞いた。危なそうなのには関わらないに限るね―――)

(―――と。僕は何をずっと考え事を……せっかくコトハちゃんが相席してくれてるのに!)

「うんうん、話してくれてありがとう! それと僕は君への認識を改めないといけないね」
「正直、もっと安全で簡単な依頼を適当にこなしているのかと思ってた!((ぉ」
「さすがは自分で”すごいと思います”と言い切っちゃうだけはあるね、素直に感心したよ」
「しっかり任務を遂行しきれるスキルを持ってる。安全確保も二重確認してて隙がない……」
「いいねいいね……ますます君を僕の助手にしたくなった」

自分の分ガーリックステーキライスを優雅に食べながら、勝手に彼女を助手にしようとしている発言が飛び出す!
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ルシェ
(ふふ、褒められて喜んでるのかわい―――皮肉が通じない!?)
(んでもって僕が喋ってる間ずっと食べてるな???)
(一瞬止まりかけたけどアクセルベタ踏みだったね??? 『まいっか!』みたいな???)
(だんだんわかってきたぞこの子のこと……むしろそのままの君でいてくれ……)

コトハのとんでもない度胸に圧倒されながらも笑みは崩さず、彼女の様子を眺めていた。
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コトハ
「ゴキュ――……わ、私のこと……ですか……」

自身の事を聞かれるのは慣れていない様子。
ただでさえ合った事の無い視線は、更に宙を漂うように横へと逸れていき、
食べ終わった口元を腕で雑に拭う。

「ゴシゴシ……」プルプル

「い、依頼は……朝は氷結聖殿……ダンジョン近くの使われなくなった篝火台再補修の為の、採取依頼です……」

手元のスプーンを縦にして、テーブルに付ける。
聳え立つ木のようにソレを固定すると、片方の手を自分として見立て、人差し指と中指で歩く様を手遊びで表現し始める。

「凍結魔法が粒子状に漂った地帯なんですけど、其処で育った樹木の内部に蓄積された火属性のエーテルを片っ端から集めました……」
「瞬間的に樹木は凍っちゃうんですけど、後からまた再燃するためにエーテル作り出すので……森林伐採とは違う~」
「自然環境では弱肉強食~」
「私は悪くない~」

手遊びで作られた自分が、スプーンをポコポコと叩いている。

「昼は対象素材を納品して、氷結聖殿に直行しました~」
「銀差しさん……えーっと、私と任務の競合起している人なんですけど(おい」

両手で手遊び。

「予め斥候していただいて、私がその後始末をする二重確認……探索依頼における安全確保をしてました~」

片方を追いかけるように、指同士をテーブル上で走らせる。

「お、おかげでギルド内での評判も鰻登り~~~」
「わ、私なしでは成り立たない~~~」
「眠すぎる……」
「え、えと……エースである私の今日はそんな感じです……」
「ど、どーでしょうか……すごいと思います」
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コトハ
「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\さ、召し上がれ!/

「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\君自身のことも聞かせてもらおうかな!/

「モグモ――( ◜⤙◝; )」
「……」
「モグモグモグモグ( ◜⤙◝ )」

\どんな依頼を華麗に片付けてみせたのかな?/

「モグモグモグモグ(´н`;)」
「モグモグモグモグ(´н`;;;)」
「モグモグモグモグ(´н`;;;;;)」

\食べながらでいいから、ちょっと聞かせてよ/

「……」
「モグモグモグモグ(⸝⸝◜⤙◝⸝⸝)♡」

「ゴキュゴキュ……」
icon
コトハ
「ほ、褒められました~」
「えへ、えへえへ૮ ₍ ⸝⸝´ ꒳ `⸝⸝ ₎ა」

皮肉を知らない女。

「た、高い……けど……その分の情報はお渡ししますので~」
「先行投資~」
「世の中借金に厳しすぎる~」

ルシェの呟く不穏な言葉は、確かに彼女の耳に伝わり、脳内に届いていた。
届いてはいたが、それよりも「食事が来る」ことへの幸福感が危機感を打ち消しており、
リスのように小さな手をすりすりと合わせていた。
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ルシェ
「コトハちゃん、”いい性格してるね”ってよく言われない?」

コトハのおねだりとしか捉えられない一連の言葉を聞いて、眉を下げながら苦笑を浮かべる。

(前回も思ったけれど、コトハちゃんは食欲旺盛だなぁ……)
(僕がこの店の新参者なのをいいことに、都合のいい習わしみたいなのを吹き込んでくるし……)
(それに……えっと……米? 奢られる前提で食べたいものまで決まってる)
(報酬がどうとか関係なくって言っておきながら、要するに『食べ物奢らないといい情報あげない』って言ってるようなものじゃないかな?)

(さて……そんなにメニュー表を揺らさなくても当然気づいているわけなのだけれど……)
(むしろずっと気づいていないフリをしたら、どこまで必死になってくるのか見てみたい気すらしてきたな……)

「わかったよ、とにかく君に投資しまくっておくことにしようかな」

友好的な表情を保ったまま、やれやれと息を吐き、
コトハが揺らしているメニュー表をひょいと取り上げて料理名をツイーと指でなぞっていく。

「ガーリックステーキライス……え~っと……うわ、これ結構高くないかい?」
「王都で稼いだ路銀にはまだ余裕があるとはいえ、これは”何日分”の貸しになるかわからないなぁ……」

と、なにやら不穏なことを口走りながらフィリカへの注文を通し、ややあってからガーリックステーキライスが二皿並ぶ。

「さ、召し上がれ! ついでに、今度は君自身のことも聞かせてもらおうかな!」
「だって冒険者ギルド・欠けた月亭きってのエースちゃんだよ? これほど興味をそそられることなんてないよ」
「今日はどんな依頼を華麗に片付けてみせたのかな? 食べながらでいいから、ちょっと聞かせてよ」

楽しそうに頬杖をつきながら、悪戯っぽく目を細めた。
icon
コトハ
(く、くそ~!!!)
(なんでだ~!!!)
icon
手練れの冒険者
腕を組んで見守っているようだ(^^)
icon
コトハ
「し、食事は……頼まないんですか?」
「お、美味しそうな献立がたくさんあるんですけど……」

コップから手を離し、テーブルに添えられたメニュー表を指さす。
ステーキやスープ、サラダの盛り合わせなど、多彩な食事が楽しめそうな料理名を次々と見せつける。

「じ、ジュースだけだと……そにょ……力って出ませんよね……」
「や、やっぱり、ほら、活気漲るギルドといえば~」
「豪快に食らいつく食事の風景じゃないですか~」
「ルシェさんは来たばかりだから分からないのは当然なんですけど」
「此処ではたくさん食べる事が華とされているので~~~」
「その、これは報酬がどうとかとかとかとか関係なく~~~」
「米――ち、力の出るものを提供してくださった方が~」
「ルシェさんの欲しい情報っていうものの、精度があがると思うですよね~~~」

メニュー表を両手で持ち、自身の前で縦に揺らす。
その行動に特に意味は無いのかもしれないが、彼女なりにルシェへと「頼んでくれ」と投げかけているものであった。

(あ、あまり目立った行動でおねだりするのは出来ない~)
(禁止令で釘差された以上、私から頼むなんてご法度だし~)
(う~、食べたいときに食べれない世の中辛すぎる~)
(てか気づけ~)
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