カオスドラマFor

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コトハ
(く、くそ~!!!)
(なんでだ~!!!)
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手練れの冒険者
腕を組んで見守っているようだ(^^)
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コトハ
「し、食事は……頼まないんですか?」
「お、美味しそうな献立がたくさんあるんですけど……」

コップから手を離し、テーブルに添えられたメニュー表を指さす。
ステーキやスープ、サラダの盛り合わせなど、多彩な食事が楽しめそうな料理名を次々と見せつける。

「じ、ジュースだけだと……そにょ……力って出ませんよね……」
「や、やっぱり、ほら、活気漲るギルドといえば~」
「豪快に食らいつく食事の風景じゃないですか~」
「ルシェさんは来たばかりだから分からないのは当然なんですけど」
「此処ではたくさん食べる事が華とされているので~~~」
「その、これは報酬がどうとかとかとかとか関係なく~~~」
「米――ち、力の出るものを提供してくださった方が~」
「ルシェさんの欲しい情報っていうものの、精度があがると思うですよね~~~」

メニュー表を両手で持ち、自身の前で縦に揺らす。
その行動に特に意味は無いのかもしれないが、彼女なりにルシェへと「頼んでくれ」と投げかけているものであった。

(あ、あまり目立った行動でおねだりするのは出来ない~)
(禁止令で釘差された以上、私から頼むなんてご法度だし~)
(う~、食べたいときに食べれない世の中辛すぎる~)
(てか気づけ~)
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コトハ
「や、やった~……」

オレンジジュースが届く。
ルシェに頂く旨を伝える軽い会釈をして、さっそく口に含んだ。

「んまい~。゜(`Д´)゜。」
「やっぱりオレンジジュースはただの飲み物じゃない~」
「この甘さと僅かな酸味が身体の働きを活性化させてくれます……」
「……あの、ところで……」
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ルシェ
「―――」
「……なるほど。確かに、言われてみればその通りだ……」

(質問する前に、ある程度の仮説は立てていた)
(僕はてっきり、あのフルフェイスの鎧の人だと思ってたんだけど……)

コトハが指し示す先で周囲に檄を飛ばしている、小さくて大きな受付嬢を見て小さく頷く。
欠けた月亭での生活、活動、食事を、彼女の説明通りフィリカさんは土台から支えている。
となれば導き出される答えも当然……

「……僕は君のことを甘く見ていたかもしれない」
「思ってたよりずっとちゃんと人を見てる。僕の予想も外してくれたし……」
「つまらなくないね」

そう言って満足げに笑った。

「それで……オレンジ系のジュース? これかい?」

確かな感心を覚えつつ、コトハがすすめるメニューを見る。
2人前からしか頼めないなんて珍しい指定だな、と思いながらこれを快諾。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
「じゃあ早速頼んじゃおうか!」
「これは君の働きに対するきちんとした報酬だからね。しっかり享受するといい」
「―――受付嬢さん! このドリンクを僕たちにお願いします」

\はいなのです~~~~! 少々おまちなのですう~~~~~!!/

軽く手を上げながらフィリカへと声をかけた。ほどなくして注文のドリンクは2人のテーブルに並べられた。
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コトハ
「い、一番怒らせてはいけない人~」
「そうですね~、私的には~」

彼女が指さしたのは、ルシェの視線の先に居た冒険者……ではなく

\アッ!!!こらこらこら~~!!/

受付兼厨房側に居るフィリカに対してだった。

「フィリカさんですね~」
「依頼受注も斡旋も報酬確認も、土台となる部分を全て担ってくださっているので」
「私達冒険者は彼女には頭が上がらないといいますか~」
「ほ、ほら、食べ物の提供だって、フィリカさんがやってくれているので~」
「空腹は最大の敵~、死活問題~」

フォークとスプーン。そして箸が手元に並ぶ。
食器を握る両手は、テーブルについて握りこぶしとなっており、
チラチラと厨房側に視線を投げやったり、お腹を擦ったりしてみせている。

「で、でも、皆さん優しい人が多いですね~」
「御恵みをなんだかんだでくださりますし~」
「厳しいけれど、今を生きる為に活力を示す人々です~」
「じ、じゃあ私にもっと甘く接してくれって話なんですけど~」
「生きるのムズすぎる~」
「お、お腹すきました~」
「……る、ルシェさんジュース飲みたくないですか~?」
「ほら、メニュー表の裏側にあるオレンジ系の奴なんかがオススメですよ~」
「に、二人前からしか頼めないらしいです~~~」
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ルシェ
(燃焼け……今のは一体!?)
(そして”見えないや”って……? やっぱそうなんだね……!? そういう理由で足元が見えないんだね……!?!? 素晴らしいよコトハちゃん……!!!)

思わず鼻の下を伸ばしてしまい、へにょへにょとした締まりのない表情でにこにこ笑っていた。
極めつけはテーブルに、本人は無自覚なのだろうがこれみよがしにたわわな果実まで乗っけられ、思わず素で居るかも分からない神に感謝を捧げたのだった(

(……が、いつまでも見惚れているわけにもいかないか)

コホン!と咳払いをし、今一度テーブルを挟んだ向かい側に座るコトハを見る

「情報高くて結構!いいね、情報の強さを知ってる証拠だ」
「それで本題なんだけど……」
「僕、この辺りに来たことってあんまりなくてさ。欠けた月亭の内事情についても少し知っておきたくてね」
「まずは、ここ欠けた月亭で……コトハちゃんが思う、一番怒らせてはいけない人って誰かな?」

と、先ほどコトハが視線を回避していた、遠方にいる手練の冒険者の姿を見ながらコトハに問うた。
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コトハ
「い、今は麦茶でもいいから飲みたかったんです~……」

貰える前提で考えている。

「――と、取引、ですか~」
「……」
「わ、私の持つ情報を、ルシェさんが欲しがっているってことですよね~」
「その対価として、お恵みを下さる――あぁいや。食事を提供するってことですね~」

ルシェの説明を、何故か自分でし直す。
まるで提案しているのは自分であるかのように。

「……じ、じゃあ、交渉成立させましょ~」

丸めていた身体を開放する。
ヒョイッと胸を張って立ち上がり、Yの字にバンザイをしてみせた。

「燃焼系」ボソッ
「……見えないや……」

すぐさま猫背となり、ルシェの対面側の椅子へとスススーっと移動する。

「で、で……い、一体何をお聞きになりたいのでしょうか~」
「私の知る情報は高いので~~~聞きたい事はしっかり精査する事をオススメします~」

パッパッと肌に付いた汚れを落とす。
特に横腹から胸部側面においては、執拗に手で弾き、プルプルと振動を加えて効率よく落としていた。
身なりがバッチシ!となったのか、椅子に腰かける。
意図的ではないが、自然と胸部装甲がテーブル上に乗っかり、たわわに形を変えた。
だが、腰掛けてから即座にメニュー表を手に取り、眼前に広げて涎を垂らし始める。

「が、ガーリックステーキライスなんてものが……」
「あ、あぁぁぁ~……魚のロティ……う、うましょ~……」
「た、高いですよ~……こ、これは、私が出来る贅沢なんかじゃない~……じゅるり……」
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ルシェ
(なんて器用な移動方法なんだ)
(さすがは東方風の装束を身につけているだけはあるね)
(防御力は低そうだけど。かなり。めちゃくちゃ)

体育座りのままコロコロ転がってきた彼女と、その膝下から覗く左右をしっかり視界に納めてご満悦の様子であった。

「でもね~。先日にご馳走した貸しをまだ返してもらってないからね~」
「そんなに期待に満ち溢れた熱視線を送られても、これをあげられるような気分にはなれないかなぁ~……」

と、わざと見せつけるようにワイングラスの中身―――琥珀色の液体を一気に飲み干す。

「ま、ただの麦茶だから君が期待するような飲み物じゃなかったかもだけどね!」
「それはともかく、そんなとこに居ないで椅子に座りなよ」
「僕と取り引きをしないかい? 君の情報を、僕が食べ物や飲み物で買うんだ」
「こうした対等な取り引きなら、君にとっても都合が良かったりしないかな?」
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コトハ
「――!」

自身の名を呼ばれ、やや警戒気味に顔を上げる。
目に入った黄金色の瞳と、敵意を感じさせない柔和な表情。

「ルシェさん!来ていらっしゃいましたか!」

最早期待しかしていない声色。
そして何より、『腹ペコ』というチャンスしか感じさせない単語が、彼女の脳内を制圧していた。

「はい、はい。お腹が空いて……」
「もう朝から~~~いや、昨日から何も食べてなくて~~~、本当にきつくって~~~」
「も、もう自分で動けないぐらいエネルギーがないんですよ~~~」

体育座りのまま、コロコロと横から転がってルシェの元へと移動する。
トンッ、と彼が逆座りする椅子の脚にぶつかり、彼を見上げる形になる。
脚を抱えるように丸まってはいるが、その左右の空間から、ニュッと柔さが覗いていた。

「……⩌ ̫⩌」

その視線はルシェの片手に収まるワイングラスであり、
言葉にはしないが「欲しい」と強請っている。
遠方にいる冒険者から見えない位置からの強請り。
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ルシェ
「―――何してるの、そんな隅で丸くなっちゃって」

(丸い……)
(マリモだ……)

月亭の隅に追いやられて丸くなっているコトハに気が付き、少し笑いながら近寄るのはルシェ。
琥珀色の液体が注がれたワイングラスを片手に、椅子の背もたれ側を前にして椅子に跨る。

「やあコトハちゃん。 大丈夫かい? なんか頭が腫れてるように見えるけど」
「それにさっき少し聞こえちゃってさ……まさかまた腹ペコちゃんなの?」

苦笑を浮かべながらワイングラスの液体をくるくる回し、ひと口含む。
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コトハ
「『今日は強請るの禁止』って釘を刺されてしまった~……」
「こ、これじゃあ、自分からせがむ事が出来ない~……」
「あ、朝の採取依頼も、昼の探索任務も、私が頑張ったのに」
「どうしてこう報われないんだろ~……」

散財するからである。

「の、喉乾いたなぁ~……で、でもお水って気分じゃない……」
「出来れば甘~いやつがいいなぁ~、トロピカルフルーツとか……練乳なんかもいいなぁ~……」
「お腹もすいちゃった……我慢出来なくて動かしすぎたのはよくなかったか~……」
「でもしょうがないじゃん。ひ、人とは元来、本能がままに動く生物~」
「私は悪くない~」

モゾモゾと隅で体育座りをして、カンテラの日陰で不貞腐れている。
あまりにも丸くなっているため、最早マリモにさえ見える。

「お、お腹が空きました~……」
「うぅ~……(。ᵕ̣̣̣̣̣̣ ꘍ ᵕ̣̣̣̣̣̣。)」

モゾモゾモゾモゾモゾ……
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コトハ
「い゙だい゙よ゙~゙~゙~゙。₍°´◠`°₎。」

月亭の隅に追いやられたコトハ。
手練れの冒険者による鉄槌が下ったようで、隅で丸くなって縮こまっていた。

「うぅ~、の、喉乾いたから分けてもらおうと思っただけなのに~」
「脱水症状反対~……よ、世の中厳しすぎる~……」
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名無しさん
―しばらくして―
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手練れの冒険者
「……」
「すまない」
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ノマド
「……」
「おい、なんだこいつは」

明らかに自分の持とうとしている酒樽を狙っているコトハを見掛け、
冒険者へと言葉を投げる。
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コトハ
「……(狙っている)」
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ノマド
「貴殿の腕前であれば、未来確立の逸脱などあり得ない」
「私の計測器から発せられる秒針から察するに、観測可能域の範疇で貴殿の運命流量は星光を示している」
「小学生が縄跳びを飛ぶ事よりも難しく、高校生が自転車を漕ぐ程に簡単な事柄となるだろう」
「依頼の受諾、感謝する」
「では、後日西の果てで……」
「その前に酒だけ飲み干すか」
「ここの酒は美味い。蜂蜜より苦く、珈琲より優しい刺激が好みだ」

席を立つ前、テーブルの隅に置いていた酒樽に手を伸ばした。
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手練れの冒険者
「『秒針折り』だったか」
「承知した。件については私が遂行する」
「機構観測士である星遣い殿の依頼だ。万が一にも失敗せぬよう、最善の準備をしよう」

ノマドの対面。
甲冑の隙間から、大きなため息まじりに彼の依頼を承諾する。
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ノマド
「零時転位による地脈の乱れ。その震源は貴方が従事した轟の最果てに潜んでいる」
「星遣いが直接、その震源に触れようとすることは、教義の中核思想たる第二原理「運命は揺らぎの中に存在する」へ離反してしまう」
「介入するにしても、観測された星相は既に確立されたものであり、我々がその神格構造に亀裂を奔らせる訳にはいかない」

とあるテーブル。
重苦しい雰囲気を放つそのテーブルには、「因果統計解析機構」の一人、星遣いたる人物が居座っていた。
対面に居る人物へと小難しい単語を並べたて、その反応を伺う。
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名無しさん
―欠けた月亭―
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シグ
「ま、待て! 落ち着け―――」

(さっき喋り方を指摘した時)
(言ってからしまった、と思った)
(俺は最後までカリスタのことをイルとして扱うべきだったんだ)
(あのカリスタがこう面白おかしく暴れている様は愉快ではあるが、別に困らせたいわけじゃない)
(今回のことは本当に不幸な事故で、お互いが被害者といっていい)
(どうにか落ち着かせてやりたいが……今更俺がなにを言っても火に油を注ぐだけだろう)

彼女の慌てっぷりとその余波による自爆の数々に気まずそうに視線を彷徨わせ、最後には静かに目を伏せるしかなかった。
汗を浮かべながらカウンターに片肘をつき、様々な言葉を投げつけられる嵐が過ぎ去るのを待つ。
そうして捨て台詞を最後にカリスタが奥のスタッフルームへと駆け込んでいったところで、シグはようやく目を開けた。

「……最悪だ」

(忘れろ忘れろと言うが……無理だろ)
(俺だって男だ。あんなものを目の前で見せびらかされては、どうあっても意識してしまう)
(問題なのはアイツが同じ冒険者ギルドで活動する、いわゆる仕事仲間で)
(恐らく翌日、翌々日にはツラを合わせることになるということだ)

「……気まじぃ…………」
「欠けた月亭で会った時には何も知らないフリをしておくべきだな。アイツのためにも、俺自身のためにも……」
「つーかあのヘルメット野郎、全部アイツのせいじゃねえか。マジぶっ飛ばしてやる、決闘だ決闘―――」

吐き捨てるように言いながら乱雑に椅子から立ちあがる。
カリスタが消えていったスタッフルームの入り口へ一瞥をやり……踵を返して歩いていった。
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イル(カリスタ)
「こ、これは!!!ち、違うんだ!!!!!!」

ワンチャンバレていないとでも思っていたのが仇となる。
あたふた、わしゃわしゃと腕を動かし、地団駄を踏むようにその場で動き回る。

「私は別に好んで此処に従事している訳ではない!!!」
「この格好もただ店の意向で――」

バンッ!とテーブルに両腕を付く。
柔軟にも振動する谷間が重力に沿って線を描き、弁明せんとカリスタは身を乗り上げて前屈みになるが

「――~~~ッ////」

自身の露出。
それは決して視線が刺さる分には彼女は気にすることはなかった。
だが、事シグに関して。彼の視線に関しては何処か恥ずかしさを覚えるのか、
両腕で胸元を隠して身を縮こませるのであった。

「いいか!お前は此処で見たことを忘れろ!!」
「い、いくらでも奢ってやる!なんでも好きなものをやろう!」
「だから忘れるんだ!!いいな!?!?」
「今日の酒代もチャージ料も取らない!招待券使ってるから当たり前か!!!」

ゴチャゴチャとグラスなどを抱え、カウンターを一度拭き直す。
都度都度自身の肌が露出している事に恥じらいを覚えながら、目を白くして背を向けた。

「ではお帰りくださいマシ!!お客様!!!」

そうして居ても立ってもいられなかったのか、小道具などを片付けて奥のスタッフルームへと駆け込んでいった。
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イル(カリスタ)
「……」

喋り方を指摘され、しばらく思考に走る。
「あれ?」とでも言うような顔。
その視線の先は、目の前に差された指からシグの瞳。
空になったグラスと、自身がその直前に発言していた内容。
挑発に易々と乗った言動。
シグの核心的な指摘。
あらゆる要素が積み重なり、自身が今『カリスタ』として彼の前に立っている事が、
充分に理解できる。

「……」
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シグ
「―――……!」

イルは飲んでいる。それも止まらない。

「おいバカ、それ以上はやめ―――!」

立ち上がってイルの手を止めようとした時、空になったグラスを目撃した。

(!?)
(飲みきったのか……!?)
(浴びるように飲んでみたかっただの、夢が叶っただのよくわからん事言いやがって)
(……度胸は認めてやってもいい)

「……わかったわかった、煽って悪かった」
「お前が俺とタメ張るくらいに酒強いのは分かったから、いったん水でも飲んどけ」

汗を浮かべながら、「認めてやる」と言わんばかりに肩をすくめる。
そしてピ、と指をイルの顔に差し向け……。

「つうか喋り方」
「”イル”はやめたのか?」
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シグ
「ハッ! ああ。飲めるもんならな」

(どうせひと口で音を上げる)

なにせ相当辛かったのだ。アルコールそのものを流し込まれたような感覚。
さながらマグマが喉を通る感覚に咽るイルの姿を想像し……
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イル(カリスタ)
(随分と舐められたものだ💢💢💢)
(その喧嘩買った💢💢💢)

「いいんだな、奢ると言ったからには私は飲むぞ」

シグの威圧を何故か挑発と捉え、彼女を彩る傲慢(プライド)が炸裂する。
彼に呑ませようとしたグラス。先と同じ要領で注がれたウォッカを手にし、
豪快に口に持っていくと。

「―――……~~~ッッッ」
「ッッッッッッッ」
「ッッッッっしぇい~~ッッッ」

目尻に涙を浮かべながら飲みきった。

「ありがとうございますお客様」
「私は一度、この手の酒を浴びるように飲んでみたかったのです」
「お陰で夢が叶いました」

どこぞのキャバレーの眼帯した長のようなセリフ回しを言いながら、
目の前で腰かけるシグに「どうだ飲んでやったぞ」と言わんばかりに見下す。
見下したいのだが、位置関係&身長の結果、見上げているのだが。
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イル(カリスタ)
(いやまて……彼は今、このウォッカを呑んで見せた。ロックで)
(勿論飲ませたのは私だ。忘れて欲しいからな)
(ただそれはそれとして、彼の気概は何処から来た?)
(飲んでみせてからの……奢る発言……それも、シグから……)
(……まさか……こいつ……)
(私が飲めないとでも思っているのか???????)
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イル(カリスタ)
(よしよし、いい飲みっぷりだシグ。お前がエールをじゃぶじゃぶ飲んでいるのはこちとらよく見ている)
(ウォッカ……それも度数90%を超えるもはや飲み物を超えた液体。お前程の酒強ならいけるだろうなと踏んでいた)
(でもそれじゃあ困んだYO!頼む、潰れてくれ!!!)

「わ~すご~い。シグさんはこんなに強いお酒も飲めるんですね~(棒)」
「それじゃあもう一杯――」

そうして新しいグラスに酒を注ぎ、シグへと渡そうとした時。
彼から酒を奢る発言があり

「ゔえ゙!゙?゙」

上擦った声で目を見開く。

「い、いや~、奢るとは言えども、私はキャストでして――」
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シグ
「酒豪といっても、まぁ人並みではあるけどな」

(思いっきし棒読みでテキトーに褒めんな!!)
(ていうか、そのふざけた恰好はなんだ?)
(カリスタだけじゃない、バニーメニーバーとか言ったか……ここの従業員ども全員だ)
(目のやり場に困るし、変な気を起こす客だって……)
(いや、確かアイツが『一時従業員招集』の依頼が欠けた月亭に来たと言っていた)
(今の状況から考えて、その招集に応じたのがカリスタで……依頼先を月亭に選んだということは、この店もある程度の信頼はして良さそうか)

そんなことをぼんやり考えていると、目の前のカウンターで飲み物を作ったイルからウォッカを差し出される。

「ああ、サンキュ…………ありがとう」

何に対してのお礼なのか。
胸元を圧迫しながらドリンクを提供するイルからグラスを受け取り、そのまま口に含むが……

「……っ!」

かぁっと熱が喉に走る。

(こいつ……!)

眉間にシワを寄せ、グラスを傾けたまま動きが止まる。

(割材で割らず、原液のまま氷だけでいただく飲み方は確かにある)
(だがそれはゆっくりとチビチビやる飲み方だ!!!)
(あろうことかコイツは『ぐいーっと』とか言い出しやがった!)
(だがここでそれを指摘してゆっくり飲み始めたら……)
(……舐められる……!!)(❓️)
(ダメだ。それだけはなんとしても避けなければならない!)

ゴッゴッゴッ(そのままぐーっと飲み干してしまう)

「―――っぷはぁ……!あー……”””キク”””ぜ……」
「イル、この店ってキャストにも酒を奢れるのか?」
「もし奢れるんだったら……お前もぜひ俺のと同じ酒を飲んでくれよ^^おいしいぜ^^(スゴゴゴゴ」
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イル(カリスタ)
「酒豪さんなんですねぇ~、すご~い(棒)」
「すぐお持ちしますね~(棒)」

最早なりふり構わず。
存在しないキャストとして立ち振る舞い、カリスタとしての威厳をかなぐり捨ててシグに視線を置く。
バーカウンターへと入ると、カウンター越しにシグと対面する形となる。

「では、こちらのウォッカで乾杯と行きましょうか」

透き通るグラスに、冷気を纏った氷を回しながら入れる。
カランカランと心地よい音を奏でるグラスを止める。
隙間に度数の強い酒を注ぎこみ、一切割る事の無いウォッカをシグへと差し出した。

「ぐいーっと飲んでくださいね」
「ここのウォッカは格別なんですよ」

差し出す際、身体を伸ばしたが故。
自身の恰好があられもないものだというのに、思考が定まらないためか、
遠慮なく谷間をカウンターに押し付ける事となる。
縦の身体も短く、手も短いため、
彼に差し出したグラスの視界の隅で、その柔い身体は忙しなく揺れていた。
icon
イル(カリスタ)
(そ、そうだ!酒、酒だ!)
(酒が齎す記憶への障害は都市でもケイオスでも変わらない)
(ありえんぐらい度数のキツイものを飲ませて、脳からダメージを与えれば……)
(シグは『此処に来た事』も忘れるし、『私に遭った』ことも忘れるかもしれない)
(いやてかもうそれしかないっしょ!ワンチャンかけるしかないべ!!!!)
(つーかこれワンチャン気づいてないべ!!!!!イルちゃんだと思ってる!!!!!)
(っぶね~~~~!!!)

都合の良いように物事を解釈した上で、シグが酒で忘れてくれるなどという楽観的思考に走る。
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イル(カリスタ)
「シグさんというんですねぇ~」
「とってもつよそ~ですねぇ~」

謎返答。
互いに視線を切り合っているが故、
彼女はシグに見られているものだと思い常に身体を隠す。
彼の声色もまた、気まずさを表している事が良く分かる。
カリスタはそのなんとも吹っ切れない現状に、ただただ羞恥が重なるだけであった。
そんな中……

\酔いたい気分だ/

「……!!」
icon
シグ
「……シグと呼んでくれ」

恥ずかしがって恐ろしいくらいの動揺を見せるイルを気の毒に思い、視線を完全に切ってカウンター正面へ向かって座り直す。
かくいうシグも、彼女を見ていたたまれない気持ちになり、一見して妖しげな店で知り合いらしき人物が働いている現場に居合わせてしまい非常に気まずい様子。
額に大量の汗を浮かべており、彼女に促されるままドリンクメニューに視線を落としている。
戦場ですらここまで露骨に汗をかくことはない……とシグは思った。

(何が何でも別人として振る舞うつもりのようだが、そんなことをしても無駄だ)
(こいつはカリスタ)
(俺を前にした瞬間の動揺や迷走っぷりも、カリスタと判ずる材料にはなるが、一番は声だ)
(王都で刻まれた数々の印の中に、聴力を強化する効果があった)
(遠方の足音や魔物や獣の唸り声、閉所では隣の部屋の息遣いまで聞き分けられる)
(もっとも、今やそいつも封印されてしまったが……なんとなく身体に染み付いているというか、”勘”が残っている)
(そも、カリスタの声を俺が聞き違えるはずもない)

「たまにはゆっくり飲んだっていいかと思ってたのによ……」
「あ~……イ、イル。とにかく強い酒をくれ。酔いたい気分だ」
icon
イル(カリスタ)
「……ッスー……えっっと……」
「い、イルちゃんで……ッスー……」

どう演じればいいのかが分からない。
凛として接客をすべきなのか、はたまた完全に別人になりきるべきなのか。
曖昧な判断が続く中、シグという知り合いに自身の羞恥的な姿を見られ、
誤魔化し方を模索している。

「お、お客様は、なんとおっしゃるのでしょうか~」
「お、おほほ、おほほほほほ」

THE☆迷走

(く、クソ……何故だ。今まで普通に振舞えたではないか)
(なのに何故だシグ。何故お前が此処にいるんだ!よりによってお前が!)
(でもすぐに帰すと拙い。今日はオーナーが在住しているから売上に対して血眼になっている)
(な、なんとか……なんとかあしらって帰ってもらうしか……)
(てか気づくな。頼む、気づかないでくれ。勘違いだと思ってくれ。頼む、シグ。頼む)

「お、お客様~、何をお飲みになられますかぁ~?」

明らかにキャラ付けであることが分かる程の猫なで声。
一生合わない視線。
そのどれをとってしても、彼女が『シグにはバレたくない』という雰囲気を醸し出していた。
それでも、彼の腰かけるカウンターの横まで足を運び、
カウンターに提示してあるドリンクメニューを指さした。
icon
イル(カリスタ)
「ち、ちが――こ、これは――」

彼女を知るものであれば恐ろしい程の動揺具合。
思わず胸元や鼠径部を隠すように手で覆い、目を大きく見開きながらもグルグルと回す。
どう身体を動かせばいいのか分からないのか、その小柄な身体は左右に揺れながら行き場を喪っていた。

(お、落ち着け、落ち着けカリスタ。まだだ。まだなんとかなる)
(そう!私は今はイル!イルなんだ!)
(つーかなんで居んだよコイツはーーーー!!!!!!)
(こういう店に絶対興味無いと思ったのに!!悟らせないように立ち回っていたか?だとしたら上手いなホント!)
(って、違う!今は違うんだ!そんなことじゃない!)
(保たなくては!縋らなくてはならない、僅かでも『あぁ、人違いか』となる可能性が残っているなら、手繰り寄せなくてはならない!)
(私はイル、イルなんだ!!!)
icon
イル(カリスタ)
「――――――――――――」
「――――――――――――」
「――――――――――――」
「―――――――――ッァ!?!?」
icon
シグ
「―――…… …… ……」

片目を開けた彼女と視線が合う。
瞬間、ピシッと一瞬で凍りつくような音を鳴らして動きが固まり、目が彼女の衣装に落ちかけて……なんとか耐え、驚愕と困惑が入り混じった表情でカリスタ―――イルの顔を凝視してしまった。

「…………」
(ふざけんな……あいつが押し付けやがったせいだ。あのヘルメット野郎、次に月亭でツラ見せたらぶん殴ってやる)
「あー……」
「……イル、と呼べばいいんだな?」

苦虫を噛み潰すような声で、わずかにイルから視線を逸らしながら確認を求めた。
icon
イル(カリスタ)
「いらっしゃいませ、お客様」

カウンター席の人物へと接近していく。
優雅な雰囲気を保つ為に、目を閉じながら、何処か神秘的な立ち振る舞いを演出する。
妖艶にもくねらせた歩き方で、抜群に仕上がったアンバランスボディを見せつけながらも、
だが触れると危ない、そんな強さも兼ね備えたような威厳を含んだ声色を出し、
目当ての貨客に、横から声を掛けた。

「バニーメニーバーへようこそ。担当させていただきます、イルともうしm――」

そうして、ウインクしているかのように片目をあけてしまった。
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イル(カリスタ)
「はい……」

スタッフルームで休憩(?)していたカリスタ。
イルという源氏名で呼ばれた彼女は、聞こえないようにため息を一つ付き、目を細める。
微塵も感じさせないやる気を表すように、ソファで丸めていた身体。
立ち上がる際、身体を解すように伸びをし、衣装の張り付きを確認しながら、密着している縁を指で沿っていく。
零れる心配がない事を確認し、全身鏡と向き合って身だしなみを確認。

「……行くか……」

ペチッ!と両頬を叩く。気合いの入魂。
そうして表へと出て行く。
バーカウンターの照明は薄暗い。人の輪郭こそ分かるが、それがスタッフなのか客なのかさえ危うい程に。
だが彼女は、そんな識別しづらい環境下でも、新規の客を見分ける事が出来た。

(あぁ、あのお客様か)
(さぁ、いつも通り、冷静沈着な私。恥ずかしがることなく、優雅にさえ思えるよう、立ち振る舞う)
(俗な恰好をしていても尚、気品を感じさせる威厳……よし。大丈夫だ。行ける)
(行くぞ、頑張るぞ、カリスターーいや、イル!!)
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バニーガール
「いらっしゃいませ~♪」
「当店のご利用は初めてでいらっしゃいますね」
「ご新規様ご案内しま~す!」

入るや否や、スタッフが案内に入る。
クラブルームのような薄暗い空間に、ポールダンスの為の広場、ジャズロックを奏でる台場。
色気づいたソファや、透明に隔たれた遊び場など、まさしく『大人』の店のような空間。
その遊び場の中でも、モダンで落ち着いた空間であるカウンターへと、ある人物を招いた。

「ただいまキャストを当てさせていただきますので、こちらの席で少々お待ちくださいませ♪」

そうしてバーカウンターの裏手へと回り、スタッフルームへと駆けて行った。

「イルちゃ~ん!ご新規様だよ~!接客よろしく~!」
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名無しさん
― バニーメニーバー ―
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名無しさん
『バニーメニーバー特別招待券』と書かれたチケット。
桃や紫の色彩、ハートや、やや如何わしい擬音が装飾された色欲めいたチケット。
それを押し付けるや否や、冒険者はテーブルからものっそい勢いで離れ


ピューンッ!

と風を残して去って行った。
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手練れの冒険者
「慰労に纏わる選択は多岐に渡る。私にとっては其れは食事であり、睡眠である」
「直近、疲弊を司る魔術師との対峙において、私の欲求は大きく乱されてな」
「城下町の客引きの声に耳を傾けるまでに均衡を崩された」
「水商売を本業とした路地裏の色町。まんまと足を踏み入れてしまった……」
「だがその際、違法賭博の現場に鉢合わせ、正気を取り戻した」
「轟に馳せた叙事詩を思い出し、精神を安定させたうえで、緊急クエストを執行したのだ」
「私娼街という風紀統制の無法地帯下に於ける賭博。葉を隠すのであれば森とはよく言ったもの」
「その組織を突き出した所、色町を仕切る商人から施しを受けた」

樽ジョッキをテーブルに叩きつけ、懐のポーチから一枚のチケットを取り出す。

「恩を返すは酒池肉林への道、と」
「……要らんと言ったのだがな……」
「無理にでも渡してくる始末。受け取らねばギルドの名を都合よく広めるとも」
「あの手の商人に交渉をするには、私では力不足故……」
「私がこれをどう扱おうが構わんのだろうが、『消費』することを強く押し付けてきた」
「故、お前にコレを『消費』して欲しい」
「何、このギルドでも『一時従業員招集』の依頼が来た場所だ」
「俗な娯楽施設だが、お前もたまにはハメを外したらどうだろうか」
「と、いう訳で」
「よろしく頼んだ。俺は確かに渡したからな」
「じゃ」
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名無しさん
― 欠けた月亭 ―
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計測器
「カチカチカチカチ😭😭😭」

忘れ去られていた。
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鳴り響く音
カ……カチ……カチカチカチ…………カチカチカチカチカチ
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店員(普通)
「何????」
「てか補導の時間だろお前、大丈夫かよ」

そうして様子のおかしいアルバイトと共に1階のクレーンゲーム広場にまで移動する。
日付が変わっていないとは言えど夜中。薄暗い店内作業をせっせと終わらせていく。

カ……カ……チ……チチ……

「てかなんか聞こえる気がするけど……まぁいいか!さっさと上がろう」

そうして店は閉まってしまう。
あるクレーンゲームから音は鳴り響いたまま。
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店員(おかしい)
「それはアンキモですね」
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店員(普通)
静まり返った2階での作業。数人がいそいそと店内で閉店作業をしている。

「夕方ぐらいの入り口でさ、女の名前叫んでたやつ居て」
「珍しくもなんともない話だけど、クソイケメンでさ」
「いやー、あれはドラマチックね。俺もあーして運命の王子様的な言動取りてぇわ」
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