カオスドラマFor

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フィン
「あ~あ……ほんっと最悪」
打たれた頬を指先で押さえながら、うんざりしたように吐き捨てる。
それからメーベルが出ていった扉へ視線を流し……ふっと笑う。
「でもね、今回は不思議と悲観的じゃないのよね。確信なんてないんだけど……それでも今回は、何かが違う気がする」
満天の星屑を散りばめた背中を、薄い期待とともに思い浮かべる。
「アンタが言ったんだからね。いい感じに運命調整してよ、メーベルさん―――」
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「……慣れとうないものでございますな」
深く息をつき、自身の内に渦巻く感情の乱れを落ち着けるように目を伏せた。
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ベティ
赤く染まっていた瞳が元の色を取り戻す。すると自分の感覚を確かめるように手のひらを見下ろした。
「……っ、やだね……これ」
身体を微かに震わせ、自身の腕を掻くように抱きしめてながらぎこちなく苦笑いを浮かべた。
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キャネード
「クク……楽しみだ、いくらで堕ちるだろうな。キャネで買えないモノなどこの世にはないんだよ―――ああ、そうだ」
ふと思い出したようにジャケット裏へ手を突っ込み、分厚い札束を抜き出す。
それを惜しげもなく雑に放り出し、フィンの足元に転がした。
「すまないな、頬を打った慰謝料だ。取っておくがいい。 ぬふ、ヌフハ! ヌフハハハハ!!」
微塵も謝罪と取れないような声の調子で言い残し、店の奥へと姿を消していった。
同時に彼女らを縛り付けていた能力が解ける。
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ベティ&フィン&静
「はい」
無機質に無感情に応える。そこに本人たちの意思など欠片も存在しなかったように思えた。
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キャネード
「―――よろしい。いい、実にいい。貴様らはどうせ僕様に逆らうことは出来ないんだ。下民は主人の機嫌を損ねぬよう、静かに控えているのが一番だ」
満足げに鼻を鳴らし、にやりと口角を持ち上げた。
「幸いにも、先の下民は「また赴く」と言った。再訪する可能性は高いだろう……結構。貴様らでも、客を呼び寄せる役目くらいはどうやら果たせているらしい」
「……あの時計……ああ、あの時計は良い。欲しい! 必ず僕様のモノにしたい……!」
「いいか、再訪したらすぐに僕様に報せろ。わかったな」
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フィン
「―――」
キャネードのたった一声で、3人はその場に縫い付けられたように微動だにできなくなっていた。
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「―――」
判断を、意識を塗り潰されるように。
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ベティ
「―――」
彼女たちの瞳に、赤が侵食していく。
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キャネード
「―――《黙れ》」
その一言が発せられた瞬間、文字通りその場の全権がキャネードに握られた。
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ベティ&静
「お、オーナー!!!暴力はダメです!!!!!」
「”おぉなぁ”様、どうかお鎮まりくださいませ。機会はまた如何様にもございましょう、この場はひとまず―――」
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キャネード
キャネードが手の甲でフィンの頬を打っていた。
「僕様の前で下民を逃がすような真似をしやがって……バレないと思ったか」
打った手を一瞥し、露骨に顔をしかめる。
それから懐から取り出した小綺麗なハンカチで、フィンに触れた手をうざったそうに拭った。
「随分と舐めた態度を取るじゃないか」
そう言って不快感を隠しもせず、フィンを見下ろした。
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フィン
「……ハ~イ!」
よぎる嫌な予感を飲み込み、いつも通りの軽い返事をしてキャネードに近寄る。
パンッ
瞬間、乾いた音が店内に響く。
「―――ッ……」
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キャネード
「おや、もう少しゆっくりしていけば良いものを。またの来店を心より待っているよ」
不敵な笑みを崩さぬまま、メーベルの背を見送る。
彼の気配が完全に遠のいた頃、その口角がゆっくりと落ちた。
「フィン。来い」
その声色は冷たく、先までの芝居がかった愉快さはない。
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メーベル
「……」
最中、フィンからの催促が耳元で鳴る。
疑問も持たず、彼女の言葉通り計測器をチェーンごと内ポケットへと仕舞い込む。コートの襟もとを正し、前ボタンを順々に締めていき、見るからに暖かそうな装備へと変化させていった。
(今度話を聞かせてもらおうか)と、目配せをして、また別のポケットから財布を取り出しながら中から札を引っ張り出す。
「チップ代も込みだ」
手のひらで抑え込むように、トンッ、とカウンターテーブルへとお金を置く。値段については詳細を得ていないが、凡そ余剰分である金額だった。
「君達と出会えたのは星の導きがあり、君達が夜空に連なる星光だったから。星遣いとしてもそうだが、個人として、また赴くよ」
「満天に呼ばれていてね。オーナーが居る手前、申し訳ないが失礼させてもらうよ」
仰々しい物言いをしつつ、フィン、静、ベティの順にアイコンタクトを残し、小さく笑みを落とす。
コートを翻し、店の出口へと向かう最中、キャネードと擦れ違う。視界に捉えられる範囲内で会釈を見せ、スカーフを再び巻きなおす。先まで波乱万丈でありながら、一人の男が現れた途端、何処か殺伐めいた雰囲気となってしまったダイナーをあとにした。
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メーベル
「……いい趣味だ。皮肉じゃない」
その瞳の揺れ動きは、常にキャネードへと向けており、彼の権力や財力に対して屈従する事なく目を合わせ続けた。
自身の発言は、少なからず敬意を欠く意図が存分に滲み出たものであったにも関わらず、まずは大笑いをするという彼の行動に、少なからず只者ではないという認識が生まれ出た。
「これだけの召し物を身に纏った伊達男を下民と称する事も、中々思い切りが良いと思ってね。細やかな真似事だよ」
キャネードの高笑いに呼応するように、彼もまた普段通りの余裕ある笑みで応える。
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フィン
「おかえりなさいマセ~オーナーさま♪ いや~お静の言う通リ、空気が一気にキャネ臭くなったのでもしやと思いマシタ~!」
営業用の笑顔を貼り付けたままヒラヒラと手を振りながらキャネードに言う。
それからすぐに視線をメーベルに向け、再び彼の耳元に顔を寄せ―――
「その計測器はまずいわ。早く隠して、ほら早く―――」
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「……お帰りなさいませ”おぉなぁ”様。場の空気が変わりましたゆえ、すぐにわかりましたが……ご挨拶が遅れましたこと、誠に申し訳ありませぬ」
淡々と感情を一切乗せず、平坦な声で告げた。
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ベティ
ベティ
「あ!!!はい!!!おかえりなさいオーナー!!出口は後ろですよ!!!!」
上手に作ったにっこにこな満面の笑みで言い放った。
愛想良く言っているが、問題はその言っている内容であった。
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キャネード
キャネード
「ふむふむ、星遣いとな……おや……?」
彼から発せられる珍しい自己紹介に頷きながらも、不意に鳴った機械音に目を丸くする。そして視線が彼の持つ計測器へ釘付けになった。
「おい下民、それは―――」
と、計測器について追求しようとしたところで彼の態度が悪化し、投げかけられた言葉に思わず笑みが込み上げた。
「くっ―――ははははは!はっはァ! いいじゃないか、あぁいいとも! 実に素直でよろしい!」
「飯がうまい、美女がいる! この僕様が手掛けた店だ、最高の場であることに相違はない!」
上機嫌に高笑いをし、僅かに瞼を下ろして目を細める。
「だがまぁ、僕様をただの”野郎”で片付けたことに関しては、随分と思い切った物言いをしたものだがね」

「ところで……おい美女とやらども、いつになったら僕様に挨拶をするつもりだ?」
首を傾け、3人の従業員へと視線を投げかけた。
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メーベル
「手厚い挨拶、痛み入る。私の星詠みは『メーベル』という」
キャネードの口上に合わせて席を立ちあがる。星屑柄のコートが、ダイナーの装飾に併せて控えめに輝きを保ち、夜空を模したスカーフを巻き直して紳士的な一礼を見せる。その物腰は至って丁寧であり、見下された事実がありながらも決して嫌悪を見せずにいた。
「先日、此処の評判を聞きつけて入店させていただきました。実に素晴らしい接客に加え、飲食についても申し分ありません」
「星遣いとして、貴方が運営する店の運命調整を私が――」カチカチ
「……ん~?」カチカチカチカチ、カチ……カチカチ
計測器の振動は、今までと異なり特殊であった。事細かに鳴り響く針の音は、これまでの微細な鳴り方よりもやや大きく、運命の調律を成さんとする事柄を奏でているようにも聞こえた。
だが、誰にも言語として理解出来ないその針音は――
「なんだ、いいのか」
メーベルの態度を悪化させるだけのものであった。
「失礼、堅苦しい表現技法を野郎に披露しても栓無きことだったな。飯も上手い、美女も居る。最高の場だと思うぞ」
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メーベル
「……なるほど……支配人か……」
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キャネード
「やあやあ、ようこそ。歓迎しようじゃないか」
歓迎など微塵も感じさせない下卑た笑みを浮かべたままカウンターへ近づき、わざとらしいほどの所作で腕を広げて見せた。
「僕様はこの店の主、キャネード・グラニュード。キャネ(金)を愛し、キャネ(金)に愛され! そして……キャネ(金)によってすべてを手にしてきた男だ」
「貴様のような下民でも、この僕様の店に足を運ぶとは……多少は目が利くらしい。実に結構だ。どうだね、我がダイナーは。存分に楽しんでいただけているかな? ん?」
顎を上げ、嫌らしい薄ら笑いを浮かべてメーベルに問いかけた。
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「……”おぉなぁ”様にございます」
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ベティ
「あの人はこのお店の―――」
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フィン
「客なんかじゃないわ、もっとたちが悪い―――」
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メーベル
「……」
(肩から離れた手。離れる寸前の僅かなブレは、俺の肩に親密に触れていた彼女とは思えないマイナス軸の振動だ)
(静の所作も気になる。先の慇懃な言動に表面こそ似ているが、ただ作法に則った動作をしただけにも見える……)
違和感が連なる彼女らの反応。そして小さな舌打ちが聞こえると、彼はカウンター越しにいるフィンへと向き直ろうとした。そうしようとした時、彼女の飾らない様子を際立てた流暢な声色が耳元に奔る。
「……あの御仁は客じゃないのか?」
唐突に帰宅を促された故か、疑問の方が打ち勝つ。その声量は、すぐ傍のフィンを含めた3人にのみ聞こえる囁きであった。
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メーベル
「――」
突如現れた男に視線を固定する。
成金の出で立ちを表すスーツや指輪は勿論のこと、権力を具現化したかのような刺繍や、見てくれと言わんばかりに雑に胸ポケットに仕舞い込んでいる札。その全身像を一目見ても、彼は特に動じることは無く、寧ろ「おぉ」と感嘆にも聞こえる声を小さく述べた。
「――上流階級の出身か……?出で立ちからして隠蔽する気配の無い支配層の趣……」
「どうやら売上への天の川が来たんじゃないか?これは君達のツキが回ってきたというもの――」
クルリとカウンター席に座ったまま周囲の反応を伺う。それは、自身が想定していたものとは掛け離れた『嫌悪』を示していた。
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フィン
「チッ……」
扉のそばにいる男にだけは聞こえないような音量で舌打ちをする。不快そうに眉を寄せながらメーベルの耳元に顔を近づけた。
「帰って」
「早く」
短く低い声でメーベルに言う。先ほどまでの外国人まぎれの大げさな発音ではなくなっていた。
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「……」
乱れも無駄もない完璧な所作で静かに一礼をする。
だからこそ、その礼は親しみや敬愛ではなく、どこかマニュアルめいたものであることが際立っていた。
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ベティ
「―――……!」
扉の向こうから現れた男を見るや、メーベルの肩に置いていた手が離れる。
常に溌剌と浮かんでいた笑顔もどこかぎこちなく、先までの底抜けの明るさは鳴りを潜めていた。
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ふくよかすぎる男
「―――フン」
扉の向こうから、過剰とも言える装飾を身にまとったふくよかな―――ふくよかすぎる男が現れた。
眉の位置で切り揃えられた金髪のおかっぱと、白を基調とし金や紫で飾った高級そうなスーツ。
大きくせり出た腹部すらも誇るように下卑た笑みを絶やさず、全身から嫌味な成金趣味がこれでもかと主張していた。
男は扉の前に立ったまま店内を見回し、メーベルへと視線を止めた。
「……ほう? 下民か。珍しいこともあるものだな」
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メーベル
「――!!!」(う、うしろ――ッッッ!?いつのまに!!!!)
自身の目で捉える事の出来なかった事象。星の流れを幾度となくこの目で観測してきた彼が、ベティの軌跡を認識出来ず、背後を許してしまう。
バン!バン!
「――ハ、ハハハ……そうだ……此処で頼めばいい……」
先程味わった苦しみがまた来るかもしれないという恐怖と戦いながら、クッソ引きつった笑みで真正面を向いたままベティへと他愛ない返答をした。
(力量に差が在り過ぎると、強者は最早じゃれ合う感覚で陥れてくる。このまま肩を叩かれ続けられていたら、俺はダイナーのカウンター座席の一部になっていたかもしれん……)
自分の頭がカウンター席に埋まっている場を想像して、げんなりした表情で肩を竦めた。
その時、はっきりと認識出来る気配が、彼の背をなぞる様に漂ってくる。
「――……おや……?もしかしたらお客さんか?めでたいな。ついに俺以外の客が――」
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メーベル
「……」

3人のやりとりを一通り眺めながら傾聴する。

(この上なく場を乱す天真爛漫なベティ、見え透いた大法螺や本音を隠そうとしない自由奔放なフィン、ダイナーの均衡を保つ虚心坦懐な静。なるほど、初めて来たにしては夜空の下に居るような居心地の良さを感じたが、人が来ない理由の要因の一つはこれか。3人の個性が見事に調和している異空間……コーディ、穴場とは言ったが、これは虎の穴だ……)

「灯台下暗しと言うだろう。夜風に当たる最中、星を見続けていては足元の花に気づかぬように――」
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ベティ
「へ~~~~……カザリはお醤油と合うのかな~~……」
「―――それにしてもメーベルさんってばすごい!!冴えてますね!!」
ぱぁっと表情を輝かせながら、椅子に腰掛けているメーベルの背後にシュタッと回り込む。
「言われてみれば、ここはご飯屋さんなんだからここで頼めばいいですよね!!! なんで気づかなかったんだろ~~~!!」
彼の両肩をバン!バン!と叩きながら(フィンに指摘され手加減はしているようだが、それでも強い衝撃)きゃいきゃいとはしゃぐ。
そんな賑やかさの中、ダイナーの出入り口から不穏な気配が漂ってきていた。
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「べ、ベティ殿……やめなされやめなされ……無益な誤爆はやめなされ……」
「つ、ツマとは、大根で作る刺身の飾りのことでございまする……!」
一方で静はというと、漫画チックに汗を飛ばしわたわたと手を振りながらベティを宥めようとしていた。
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フィン
「クォルルァ!!」カーン! \?/キョロキョロ
間髪をいれずにフィンのお玉がベティの頭上に振り下ろされ、やたら爽快な音を立てた。
「オマエが話してると事故起きまくるからちょっと黙っててホシ!!」
「やっっっと来てくれた大切なお客サマなんデスから……! ご新規サンは全力で囲い込むデェェェス……!!」
こちらはこちらで、あまり客の耳に入れなくてもいい本音を盛大にぶち撒けていた。
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ベティ
「ツマって妻!?!??!? お、奥さんを醤油でおいし―――え、えっちです!!!!!」!?
脳内で最悪の誤変換を叩き出す。メーベルの配慮で早々に話題を変えてくれていたにも関わらず、ベティは勝手に妄想を膨らませてすぐにその顔を真っ赤に染めた。
「ちちちなみにどのように食すのかくわs―――」
まさかのアクセルべた踏みであった。
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メーベル
「……」
ピュアという単語に対する異常なまでの思考時間に対して、特異性を感じ取る。恐らく単語の意味合いをそもそも知識として備えていない事を考慮して、どう説明すべきかと悩んでいたところ
「醤油で美味いて……ツマのことか?」
予測ではあるものの、最早説明さえ困難である認識が飛び交ったため、一旦彼女がピュアというものに触れる機会を取り消すべく、話題を変えるべきだと思考に至る。
その最中、突如出てくるワードの数々の連想ゲーム感覚に、眉を数度動かした。
「元気一杯だな、君は。焼き鳥屋に行くのは構わないけれど、初対面である男に対してその招待の仕方は聊か距離感が近いと思うんだが」
「……君のキャラではあるか……ダイナーで焼き鳥の提供は抑々として存在し得ないかな?此処でチキンのメニューを取り入れるのであれば、他店に赴かずともパーティが出来ると思うぞ」
ベティの溌溂さに押され気味故か、ところどころ歯切れの悪い返答が続く。ただそれは嫌悪的要素は含んでおらず、彼女の元気さが故にそれに合わせようという努力は垣間見えた。
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ベティ
「ね~~~!! 私は私でいいですよね!! わ~~誰かに『ベティでいい』って言ってもらえると嬉しい!!大発見です!!!!」
むふー!!と、みなぎる自信を発散するかのように勢いよく胸を張る。
満足してふと視線を落とすと、カウンターの上で象られていた文字を見てきょとんとする。
「それでメーベルさん、さっきから私から出た変なの拾って何をしてるんですk……ピュ…………?」
思考がフリーズしたかのように動きを止め、頭の中の引き出しを一生懸命開けまくっていた。そうしてベティが思考を限界まで練り上げて絞り出した言葉が―――
「………………ぁ゛……しょ、醤油つけると美味しいやつ……?」
――――。
「まあいいや!!!!!(無敵) え!!青色好きなの~~~!? わーいいよね青色!!メーベルさんに似合ってます!!!」
「じゃあ書いてあげよ~っと―――へ、お空を見上げた時!?(一転攻勢)わ~鳥さん飛んでますよね~空って!!(スイッチ)焼き鳥食べたいな~(パなし)今度焼き鳥屋さんいきませんか!?(起き攻め)」
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メーベル
「……?いや、言ってな――」カチカチ?
「俺の滑舌が悪かったか。『ピュア座』と言ったんだ。すまない、どうやら君から受けた衝げk」カチカチ(◞‸◟)
「さっき飲んだ酒が悪さをしているようでな。シュワちゃんとは言ったつもりはなかったんだ。君はベティのままでいい。ベティでいい」
彼女の周りに浮かんだハテナマークを両手で抱え込むように回収する。回収したハテナマークを引き延ばしたり、違う角度に曲げたりして、カウンターの上に「ピュア」と文字を作った。
「あと俺の好きな色は青色だ。正確にはシアンという明るみに長けた青でな。未明に近い頃に、空を見上げた時に映る色を想像してくれるとわかるかな」
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メーベル
ピュア座と言い直した時、彼は特に違和感も無く普段通りの言動をしていた。それ故に、ふと感じた二人の圧が背中をなぞり、ブンッ!と首を振ってその圧の元に視線を向けると。
「……」
どうやら言い直してよかったようだ、と心の中で胸を撫でおろした。ただ本来、口にしようとした星座を、本当は滅茶苦茶発声したかったようで、誰にも気づかれぬように残念めいたように目を伏せた。
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ベティ
\ピュア座とでも名付けようかな/
「え……”シュワちゃん”……?」
「……? ………???」
小首を傾げ、ハテナマークがポンポンポンと浮かびまくる。
「わ、私ベティがいいです……シュワちゃんはちょっと……ヤですね……」
どこか言いにくそうに、申し訳なさそうに言うが……誰も『シュワちゃん』などとは言っていないのであった……。
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フィン&静
\ピュア座とでも名付けようかな/
「……計測器くんのお陰で命拾いしたわね。言い切ったら頭を楽器にしてやるとこだったわ」
「うむ……仮にも花の乙女にございますゆえ、仕置きをするところでございました」
メーベルとベティの脇で、密かに危機が一つ回避されていたのだった。
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\星座の名はゴr/
バサッ
なぜか置いてあったハリセンに手を伸ばし―――
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フィン
\星座の名はゴr/
カチャッ
咄嗟にお玉を引ったくるように掴み取り―――
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ベティ
「え!!! おそろっち!?!? おそろっちするーーー!?!?」
「じゃあ私が書いてあげます!!! えへへ!! 超デコっちゃお~ぜったい可愛くしてあげますから私!!! ねーねー何色がいい? 何色が好き~~!?」
キラキラと表情を輝かせ、とてもついさっきまで謝罪をしていたとは思えない勢いでその場でぴょんぴょんと身体を弾ませた。
「エ!!ビンタだなんてヤだな~も~~~!! ちょっとタッチしただけじゃないですか、タッチ~!」
そう言いながら、えいえいと空中で軽く手を振ってみせるが、ヴンッ!ヴンッ!!と風切り音が鳴り、明らかに常人のそれではなかった。
「でもサービスって思ってくれてるならベティ嬉しい~~~!! 次はも~~っとサービスしちゃおっかなぁ~!」
と、ここで彼の口から”星座の名”が飛び出そうとし―――
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メーベル
突如目の前に迫る美少女の笑み。思わず尻込みするかのように、身体を後ろに逸らして、瞳を縮小させた。
「あ、あぁベティ、よろしくお願いします。挨拶通り、俺はメーベルだ。俺も名札を付けて来店しようかな」
ベティの張りつめた制服に掛けられたネームプレートに一瞥をやり、それを見て欲しいと無邪気に笑みを浮かべる彼女に釣られて、彼もまた口角を純粋に持ち上げた。ネームプレートで名前を忘れないという発想が気に入ったのか、自身もまた名前を憶えて貰えるようにという冗談交じりのトークを返す。
「あぁ、大丈夫だ。もう背中の衝撃は夜空に消え去って――」
「うん、患部を冷やすどころか凍らせてしまおうという意気込みはヤバいな。全て勢いでどうにかしようとしていないか君」カチカチd
「冷凍庫に入るのがいい未来な訳ないだろ」ガッ
「サービスならさっき貰ったよ。君からの熱烈なビンタ(?)は俺の天体図には存在しなかった星座を記録してくれた。インパクトしかない。星座の名はゴr」カチカチカチカチ!!!!
「ピュア座とでも名付けようかな」
ベティに挨拶を交わす中、計測器が合間を縫って音を出す。懐中時計から鳴っているのがわかりやすい程に、計測器は音を鳴らす度に小刻みに震えていた。振動の度に、器具の反射が輝き、ダイナーの色に併せて白にも赤にも共鳴していた。
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メーベル
\何百人のお客サマを病院送りにしてきたカ……/
「……」
フィンの口から出たものは、大抵数字のインパクトのみが重視されたものだと思ったが、この時ばかりはその通りかもしれないと彼は心の中で頷いていた。
「静の眼を以てしても捉えきれない速度か……通りで俺の背中に新たな星座が生まれる程の核融合反応が如く衝撃が発生したわけだ。いや納得出来んて」
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ベティ
「あわわ……は、は~い! ごめんなさいっ、メーベルさん!!」
両足をぴしっと揃え、勢い良くぺこっと頭を下げる。
そしてそのまま反動をつけて頭を上げ、カウンター席に座るメーベルにずいっと迫り寄る。
「改めまして、私ベティって言います!!! ほら見て、ここ!!ベティって書いてあるでしょ!?これ便利ですよね~~名前忘れないから安心~~~!!!」
言いながら彼女は、ピンと張りつめた制服の胸元――『ベティ』と可愛らしく書かてたネームプレートをこれ見よがしにアピール。
十分に確認してもらえたと思ったタイミングで、パンッ!と申し訳なさそうに両手を合わせた。
「それからいきなり背中にタッチしちゃってごめんなさい!! えっと……お詫びにデザートでも……? アッそれとも氷!?!お背中冷やした方がいいですよね!!!?なんなら特別大サービスで、おっきな冷凍庫に入ってもらうというのもイケますけど!!!!!」
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